名取佐和子『銀河の図書室』

 『銀河の図書室』という、若者向け小説を読みました。

銀河の図書室 銀河の図書室
名取 佐和子 (著)
実業之日本社 (2024/8/1)
Amazonで詳しく見る

 物語の舞台は、神奈川あたり?の高校に、つい最近できたという小さな宮沢賢治同好会で、その名もなんと、「イーハトー部」です。

 本書の帯には、次のような紹介文があります。

県立野亜高校の図書室で活動する「イーハトー部」は、宮沢賢治を研究する弱小同好会だ。部長だった風見先輩は、なぜ突然学校から消えてしまったのか。高校生たちは、賢治が残した言葉や詩、そして未完の傑作『銀河鉄道の夜』をひもときながら、先輩の謎を追っていき──

 正直言って、高校生たちの青春を描いた初々しい文章を読んでいくのは、最初はちょっと気恥ずかしかったのですが、読み進むうちに、どんどん引き込まれてしまいました。
 きっとその理由は、登場する高校生たちが、みんな賢治の作品に、心から精一杯向き合おうとしているからなのだと思います。そして作者さんも、賢治のことが本当に好きで、賢治の作品についてご自身で深く考えておられることが、ひしひしと伝わってきました。

 物語の中で賢治作品のテクストは、どれもちゃんと旧仮名づかいで、太字にして引用されています。それは登場順に、「星めぐりの歌」、「セロ弾きのゴーシュ」、「停留所にてスヰトンを喫す」、「虔十公園林」、「〔何をやっても間に合はない〕」、「〔みんな食事もすんだらしく〕」(およびその先駆形「境内」)、「眼にて云ふ」、「農民芸術概論綱要」、「風の又三郎」、「銀河鉄道の夜」です。
 賢治の童話だけでなく、詩にもしっかり目配りされているのが、個人的には嬉しいところです。

 ところで賢治の作品においては、ある時期までは最終形と考えられて全集に収録されていた作品テクストが、その後の研究の進展によってさらに後の段階のテクストがあると判明すると、新たな全集で以前のテクストは「本文」としては収録されなくなるという現象が時に起こり、上の「〔みんな食事もすんだらしく〕」と「境内」も、そのようなテクストの一組です。物語では一人の生徒が、昔のテクストの方を読みたくてわざわざ古い版の全集を選んで借りているという、なかなかマニアックなエピソードも出てきます。
 また最後の一連の場面で、主人公が語る「銀河鉄道の夜」の解釈も、高校生らしくていい感じでした。

 ということで、宮沢賢治に関心のある高校生や、あるいは昔の高校生の方には、これは夏休みにお薦めの一冊だと思いました。

 私も何十歳か若かったら、「イーハトー部」に入部してみたいです。