一〇九〇

     〔何をやっても間に合はない〕

                  一九二七、八、二〇、

   

   何をやっても間に合はない

   そのありふれた仲間のひとり

   雑誌を読んで兎を飼って

   巣箱もみんなじぶんでこさえ

   木小屋ののきに二十ちかくもならべれば

   その眼がみんなうるんで赤く

   こっちの手からさゝげも喰へば

   めじろみたいに啼きもする

   さうしてそれも間に合はない

   何をやっても間に合はない

   その(約五字空白)仲間のひとり

   カタログを見てしるしをつけて

   グラヂオラスを郵便でとり

   めうがばたけと椿のまへに

   名札をつけて植え込めば

   大きな花がぎらぎら咲いて

   年寄りたちは勿体ながり

   通りかゝりのみんなもほめる

   さうしてそれも間に合はない

   何をやっても間に合はない

   その(約五字空白)仲間のひとり

   マッシュルームの胞子を買って

   納屋をすっかり片付けて

   小麦の藁で堆肥もつくり

   寒暖計もぶらさげて

   毎日水をそゝいでゐれば

   まもなく白いシャムピニオンは

   次から次と顔を出す

   さうしてそれも間に合はない

   何をやっても間に合はない

   その(約五字空白)仲間のひとり

   べっかうゴムの長靴もはき

   オリーヴいろの縮みのシャツも買って着る

   頬もあかるく髪もちゞれてうつくしく

   そのかはりには

   何をやっても間に合はない

   何をやっても間に合はない

   その(約五字空白)仲間のひとり

   その(約五字空白)仲間のひとり

   

 


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