星めぐりの歌
1.歌曲について
宮澤賢治のすべての歌曲のなかで、おそらくもっとも親しまれているのが、この「星めぐりの歌」ではないでしょうか。
彼の最初期の童話「双子の星」では、「空の星めぐりの歌」に合わせて銀の笛を奏でるというのが、チュンセ童子とポウセ童子の毎晩のつとめでした。下の歌詞は、この童話の中で、初めて登場します。
また、晩年の「銀河鉄道の夜」においても、子供たちはケンタウル祭の夜に、みんなで「星めぐりの歌」を唄うことになっています。ジョバンニもカンパネルラも、物語のなかで何回か、この曲を口笛で吹きます。その響きは、ある時は「高く高く」、ある時は「さびしそう」で、作品の舞台における重要な小道具になっています。
2.演奏
(1)「青島広志編曲版」は、青島広志氏が1996年に発表した『宮沢賢治歌曲集 ポランの広場』に収録されている、「星めぐりの歌」の編曲です。歌は初音ミク、伴奏は本来はピアノですが、ここではハープにしてあります。
(2)「加藤學編曲版」は、岩手出身の作曲家、故加藤學氏の「混声合唱のためのイーハトーヴォ幻想」のなかから、第三曲「星めぐりの歌」です。加藤學氏は、岩手大学を卒業後、県内の高校の音楽教師・合唱指導者として教育に尽くした後、1992年からはフリーの作曲家として活躍しておられましたが、1998年に47歳の若さで亡くなりました。この「星めぐりの歌」は組曲のなかの愛すべき小品で、歌詞の二番の部分では、アルトとソプラノの輪唱に男声も掛け合い、まるでぐるぐると廻りつづける「星めぐり」を象徴するかのようです。
(3)「林光編曲版」は、お馴染みの林光氏による混声四部合唱編曲です。上の加藤學編曲はその躍動感が特徴ですが、対照的にこちらの編曲では、静かな悠久の星座の運動を淡々と象徴するかのようなピアノのアルペジオの上に、歌詞の一番・二番が控えめに二回繰り返されます。単純で素朴な編曲のようでいて、林氏らしい洒落っ気もちゃんときいています。
(1) 青島広志編曲版
(2) 加藤學編曲版
(3) 林光編曲版
3.歌詞
あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あをいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。
オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。
大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ。
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて。
4.楽譜
(『新校本宮澤賢治全集』第6巻本文篇p.330より)