放送大学講義「宮沢賢治と宇宙」

 この4月7日から、放送大学の講義「宮沢賢治と宇宙」が始まっています。その内容は、シラバスの「講義概要」で次のように説明されています。

宮沢賢治(1896年-1933年)は今から約百年前に活躍した作家である。わずか三十七年の生涯であったが、膨大な作品(童話、詩、短歌など)を遺した。自分の作品を心象スケッチと呼んだが、豊富な自然科学の知識が散りばめられているので科学の読み物としても高く評価できる。そこで、この講義では賢治の作品に基づいて、天文学の入門を試みる。

「宮沢賢治と宇宙('24)」シラバスより)

 YouTubeの「テレビ授業科目案内」では、4人の講師の先生が、それぞれの担当分野を簡単に紹介しておられます。

 講義全体の趣旨は、「宮沢賢治の作品を通した天文学入門」ということで、賢治作品を鑑賞すること自体が目的ではないのですが、冒頭の第1回~第3回の、大島丈志さんが担当される部分では、賢治の生涯や作品について、わかりやすく奥深い解説を聞くことができます。
 今朝あった第2回では、「賢治の修羅と文学―詩集『春と修羅』をめぐって―」と題して、『春と修羅』の「」、「永訣の朝」、「無声慟哭」、「高原」が、丁寧に読み解かれました。賢治が「心象スケッチ」という方法に込めた思いや、仏教的世界観と「利他」や「慈悲」、それに対置される「修羅」の意識が、浮き彫りにされました。

 来週4月21日は、「賢治の修羅と文学―農業と童話「グスコーブドリの伝記」をめぐって―」です。大島さんのご専門である、賢治と農業についてのお話も楽しみです。

 放送は、4月7日から7月14日までの毎週日曜午前8:15~9:00で、BS放送231チャンネルの「放送大学テレビ」で、視聴できます。
 各回のテーマと授業内容は、下記のようになっています。(「宮沢賢治と宇宙('24)」シラバスより)

テーマ・内容・キーワード 講師
第1回(4/7) 賢治の人生
宮沢賢治の明治29(1896)年から昭和8年(1933)年の人生を大正自由教育などの同時代状況と関連付けながら考察し、詩人・童話作家・農業技師と様々な活動を行った宮沢賢治の多面性と思想に迫る。
【キーワード】
岩手県、花巻、農業、宗教、「グスコーブドリの伝記」、「銀河鉄道の夜」
大島 丈志
第2回(4/14) 賢治の修羅と文学―詩集『春と修羅』をめぐって―
宮沢賢治作品のなかでも詩を扱う。詩集『春と修羅』のはじまりであり、また詩人の主張の詰まった「序」を読み解き、さらに表題作の「春と修羅」、妹トシについての「永訣の朝」や「無声慟哭」を読み解く。
【キーワード】
恋愛、修羅、「永訣の朝」、「無声慟哭」
大島 丈志
第3回(4/21) 賢治の修羅と文学―農業と童話「グスコーブドリの伝記」をめぐって―
宮沢賢治作品のなかでも、宮沢賢治自身の実践的な活動とも関係の深い、「グスコーブドリの伝記」を扱う。同時代の岩手県の農業をめぐる状況を背景にしながら作品を読み解き、そこから宮沢賢治作品の思想について考察する。
【キーワード】
農業、蔬菜、「グスコーブドリの伝記」
大島 丈志
第4回(4/28) 星好きとしての賢治
『銀河鉄道の夜』にはさまざまな星座や天文学の当時の知見が込められているが、そのような知識を賢治はどのようにして得ていったのか、考えてみることにしよう。また、幼少時代の賢治の趣向などから、星好き、あるいは理科少年としての賢治像を解説する。
【キーワード】
宮沢賢治、理科少年、明治・大正・昭和初期の科学
渡部 潤一
第5回(5/5) 『銀河鉄道の夜』への基礎となる作品群
『銀河鉄道の夜』を書く前に、賢治は様々な作品、それも星や星座が登場する作品群を残している。いわば『銀河鉄道の夜』へ向かう基礎となった作品群と言える。ここでは、それらの作品群のいくつかを解説しつつ、『銀河鉄道の夜』へつながる要素である鉄道と星について背景を学び、賢治作品全体を支える幻想世界の構造についても紹介する。
【キーワード】
宮沢賢治、『銀河鉄道の夜』、『シグナルとシグナレス』、冬と銀河ステーション、鉄道、星
渡部 潤一
第6回(5/12) 宇宙に時間がない頃
宮沢賢治の詩『雲の信号』に出てくる言葉“時間のないころ”に着目し、無からの宇宙誕生について解説する。そして、無から誕生した宇宙の進化についても概観する。
【キーワード】
無からの宇宙誕生、ビッグバン宇宙論、宇宙の進化、銀河の進化、地球の誕生、『雲の信号』
谷口 義明
第7回(5/19) 『銀河鉄道の夜』に学ぶ銀河
『銀河鉄道の夜』などの作品に基づいて、銀河系(天の川銀河)の性質について講義する。
【キーワード】
天の川、銀河系、バルジ、棒状構造、『銀河鉄道の夜』
谷口 義明
第8回(5/26) 「青森挽歌」に学ぶ銀河
「青森挽歌」などに基づいて、銀河銀河系の全体構造、および銀河全般の性質について講義する。銀河の構成要素は星だけではなく、星と星の間にある星間ガス、さらにはダークマターも重要な成分である。また、宇宙における元素についても概観する。
【キーワード】
銀河系、銀河形態のハッブル分類、楕円銀河、渦巻銀河(円盤銀河))、銀河円盤、ハロー、ダークマター、ダークエネルギー、元素、『青森挽歌』
谷口 義明
第9回(6/2) 「いて座」の邪気
賢治は天の川が生きていると感じていた。そして、天の川のみならず宇宙が動的平衡状態にあり、変化する存在であることを認識していた。このような宇宙観を持つ人は、当時は極めて少なかったと考えられる。ここでは、賢治の時代では知られていなかった天の川の中心に潜む超大質量ブラックホールの話題も含めて、賢治のエネルギー観について解説する。
【キーワード】
銀河中心核、活動銀河中心核、いて座A*、超大質量ブラックホール、事象の地平線、ブラックホール・シャドウ、光子半径、光子球、銀河の発電所、『あまの川』、『ポランの広場』、〔温く含んだ南の風が〕、〔この森を通りぬければ〕、『グスコーブドリの伝記』、〔岩手軽便鉄道 七月(ジャズ)〕、〔サキノハカといふ黒い花といっしょに〕
谷口 義明
第10回(6/9) 銀河の住処
銀河系、アンドロメダ銀河など、近傍の宇宙にある銀河の様子を調べ、銀河がどのような環境に存在しているか理解する。銀河の進化には銀河相互作用が重要な役割を果たしている。その観点から楕円銀河とS0銀河の形成過程について考察する。
【キーワード】
銀河の誕生と進化、アンドロネダ銀河、環状星雲(惑星状星雲)、オリオン星雲(散光星雲)、M33、M81、M82、銀河相互作用、潮汐力、銀河の合体、スターバースト、楕円銀河、S0銀河、『星めぐりの歌』、『水仙月の四日』、『土神ときつね』、『シグナルとシグナレス』、〔北いっぱいの星ぞらに〕
谷口 義明
第11回(6/16) 動的ハッブル系列と宇宙の大規模構造
銀河の観測が精密に行われるようになって、従来の“静的”な銀河像から“動的”な銀河像へと変わってきた。これは宇宙の進化と関連している。宇宙は大規模構造を形成しながら進化してきたのである。そのため、銀河の進化には銀河の相互作用(衝突や合体)が大きな影響を与えてきている。このことを考慮して、銀河のハッブル分類について再考してみよう。
【キーワード】
銀河の進化と宇宙膨張、銀河の形態、ハッブル分類、銀河相互作用、孤立銀河、連銀河、銀河群、銀河団、ヴォイド、宇宙の大規模構造
谷口 義明
第12回(6/23) 『銀河鉄道の夜』と『土神ときつね』に学ぶ星
賢治の童話『土神ときつね』を題材にして、星のエネルギー源や性質(質量、光度、温度、色、スペクトルなど)に関する講義を行う。また、星の誕生と進化の概要も講義する。
【キーワード】
星と惑星、星の誕生、ガス雲の重力不安定性、星のエネルギー源、熱核融合、陽子-陽子連鎖反応、星の性質、星のスペクトル型とハーバード分類、『土神ときつね』、『銀河鉄道の夜』
谷口 義明
第13回(6/30) 賢治は太陽系に何を見たのか I
主に太陽系に関する天文学史をたどる。19世紀までの宇宙観,賢治の生きた20世紀初頭の宇宙や地球・惑星に関する私たちの認識を変える発見,および,その後の天文学が明らかにしたことを紹介する。
【キーワード】
科学史,太陽系,太陽系の年齢,宇宙観
大森 聡一
第14回(7/7) 賢治は太陽系に何を見たのか II
賢治は太陽、月、太陽系の惑星にも当然のことながら大きな関心を持っていた。また、太陽系の中に散在している宇宙塵(ダスト)についても関心を持ち、宇宙塵の引き起こす現象(流星、黄道光、対日照)にも知識を持っていた。これらを含めて、賢治の太陽系観について解説する。
【キーワード】
太陽系、太陽、惑星、準惑星、小惑星、太陽系外縁天体、彗星、流星、〔生徒諸君に寄せる〕、『太陽マヂックのうた』、『イーハトーボ農学校の春』、『銀河鉄道の夜』、『真空溶媒』、『暁穹への嫉妬』、『星めぐりの歌』、『ポランの広場』
大森 聡一
第15回(7/14) 『銀河鉄道の夜』に見る賢治の宇宙観
賢治の童話の名作『銀河鉄道の夜』はどのように構想されたのだろうか? 『銀河鉄道の夜』に至る動機はいくつもあるのだろう。大好きなフィンセント・ファン・ゴッホの名画《星月夜》に影響を受けた可能性もある。賢治の卓抜した発想術を垣間見ておくことにしよう。それは研究する極意にも繋がる。
【キーワード】
mental sketch modified、銀河系とアンドロメダ銀河の合体、『銀河鉄道の夜』、「東岩手火山」、星月夜、『ゴオホサイプレスの歌』
谷口 義明

 第6回あたり以降は、メインは天文学のお話になっていくようですが、「雲の信号」に出てくる「時間のないころ」とか、「「青森挽歌」に学ぶ銀河」とかも、いいですね。

 講義のテキストも、出ています。

宮沢賢治と宇宙 (放送大学教材 8248) 宮沢賢治と宇宙 (放送大学教材 8248)
谷口 義明 (著), 大森 聡一 (著)
放送大学教育振興会 (2024/3/20)
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