山波言太郎総合文化財団の「雨ニモマケズ」詩碑

 去る7月18日に、鎌倉市の「山波言太郎総合文化財団」にある「雨ニモマケズ」詩碑を見学してきましたので、石碑のページにアップしました。

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 長く賢治の文学碑めぐりをしているおかげで、こういう興味深い財団にも出会うことができます。
 「山波言太郎総合文化財団」のサイトによれば、山波言太郎(1921-2013, 本名桑原啓善)氏は、慶應大学経済学部在学中に、「心霊研究の迷信を叩こうとして心霊研究に入り、逆にその正しさを知ってスピリチュアリストになる。浅野和三郎氏が創立した「心霊科学研究会」、その後継者 脇長生氏の門で心霊研究30年。」ということです。
 さらに還暦を過ぎてからは、「1982〜1984年、たった一人の平和運動(全国各地で自作詩朗読と講演)を行う。1985年「生命の樹」を創立してネオ・スピリチュアリズムを唱導し、でくのぼう革命を遂行。地球の恒久平和活動に入る。1998年「リラ自然音楽研究所」設立。すべての活動を集約し2012年「一般財団法人 山波言太郎総合文化財団」を設立。」ということです。

 山波(桑原)氏には、スピリチュアリズム関係の著書や訳書が数多くありますが、宮沢賢治にも深く関心を寄せ、『宮沢賢治の霊の世界―ほんとうの愛と幸福を探して』『宮沢賢治とでくのぼうの生き方―スピリチュアルな話』『変革の風と宮沢賢治』など、著作・講演録も多数あります。
 とりわけ、「〔雨ニモマケズ〕」に描かれた「デクノボー」の精神に、強い共感を寄せておられたようで、その遺志を「でくのぼう碑を建てる会」の方々が引き継いで、2018年にこの「雨ニモマケズ」詩碑が建立されました。

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山波言太郎総合文化財団
リラ自然音楽研究所

 上の写真で、「雨ニモマケズ」詩碑の右には「でくのぼう碑」が、さらにその右には「不戦の塔碑」が並んでいます。山波氏の考えでは、「デクノボー(無私無償の愛と奉仕の人)に皆がなれば、地球は愛の星に変わる」とのことで、これが「デクノボー革命」だということです。

 本名の桑原啓善名義による著書『宮沢賢治の霊の世界』(でくのぼう出版)では、氏が森荘已池氏の家を訪ねた際に聞いた、「まだ誰にも話したことのない、書いたこともない」話が紹介されています。

 「賢治は何度もこの部屋に泊まっていったんですよ」、森氏は私達が対座している、二階のやや古めかしい六畳間の、畳を指さして言った。その部屋には、賢治が愛用していたという、方一間のもうニスも剥げちょろけた書架が置いてあった。「臨終の日です。昭和八年九月二十一日ですね。早朝四時半か五時、賢治がこの家に来たのです。私が寝ていますと、階下の土間を人の歩く音がするのです。ゴム靴をはいて歩く音です。二度・三度も行き来するので、隣に寝ていた妻も気が付いて、てっきり泥ママだと思いましてね。私は階段を降りて、そうですね、下から三段目まで降りたところで、音はパタリと消えたのです。階下の土間には電灯がついていて、誰もいません。鍵はかかったままで、何事もないのです」。その時、お茶を運んで来られた森夫人が「そうなんですよ。宮沢さんは、いつもゴム靴をはいていて、歩くとゴポゴポ音がするのです。その音ですよ」。森夫人はそれが賢治の音であることを疑っていない。
 その事があって間もなく、その日、賢治の死の知らせを受けた森夫妻は、賢治が臨終の日に、この家を訪れたことを、今なお信じて疑わないのである。(『宮沢賢治の霊の世界』pp.23-24)

 その後、森荘已池氏は桑原啓善氏に、賢治がいつも会うたびに「鬼神ばなし」を語っていたことを話してくれたのですが、具体的にどんな話だったのかと尋ねると、態度が一変して、「あー、忘れた、忘れた。もう五十年も昔のことですからね」と笑い、別れの際には「清六さんを訪ねても、鬼神の話はタブーです。聞いてはいけません」と注意されたということです。

 しかし、後に桑原氏が宮沢清六氏を訪ねた際、賢治が死後どんどん有名になったことについて清六氏が、「賢治があちらで一生懸命努力しているから」などとまるでスピリチュアルな言い方をしたものですから、思わず桑原氏が「鬼神のこと」について尋ねると、途端に清六氏の顔がひきつり、「それはタブーですから」と口を閉じられてしまったということです。
 最近でこそ、賢治の様々な超常体験については、「解離」という心理現象などいろいろな観点から研究されることも多くなり、「タブー」という感じはなくなっていますが、昔は父の政次郎氏が賢治に「怪力乱神を語るな」と戒めていたこともあり、宮沢家では話題にしにくい雰囲気があったのでしょう。

 これに対して、そういう「怪力乱神を語らず」のスタンスの言わば対極にあるのが、桑原啓善氏による『宮沢賢治の霊の世界』という本です。ここでは、まさにスピリチュアリズム全開で、賢治の作品が「霊的世界」を文字通りそのまま描いたものとして、どんどん読み解かれていきます。たとえば、『春と修羅』の「」の(ひかりはたもち、その電燈は失はれ)という一節では、「ひかり」が霊魂、「電燈」は肉体を表しており、肉体が失われた後にも霊魂は不滅であることを述べている、ということになります。

 このような独特の解釈には、もちろん異論もあることと思いますが、桑原(山波)氏が本当にピュアな心持ちで賢治のテキストを読み、自らの世界観に従って理解しようとしておられたことは、ひしひしと伝わってくる感じがします。

宮沢賢治の霊の世界―ほんとうの愛と幸福を探して 宮沢賢治の霊の世界―ほんとうの愛と幸福を探して
桑原 啓善 (著)
でくのぼう出版 (2001/6/1)
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 ところで、上の「山波言太郎総合文化財団」の写真には、この財団名の下に「リラ自然音楽研究所」という標識も出ています。
 この音楽研究所がどのような活動をしているのかと思って調べてみると、YouTubeにたくさんの演奏がアップされていて、宮沢賢治関連の歌や朗読も、いろいろ聞くことができます。なかでも、この研究所に所属する青木由有子さんという方の歌唱が、とても素晴らしいのです。

 下記には、YouTubeのリラ自然音楽のチャンネルから、宮沢賢治に関連した歌を挙げさせていただきます。
 「鶯宿はこの月の夜を雪ふるらし」などは、この詩の神秘的で静謐な雰囲気が、繊細な歌唱・朗読と美しくマッチしていると思います。

「朗読歌曲 鶯宿はこの月の夜を雪ふるらし」 ライアー弾き語り:青木由有子/朗読:月読かぐや

 

「朗読歌曲 ノクターン~噴火湾」朗読:青木由起子/ヴォカリーズ・ピアノ:青木由有子

 

「星めぐりの歌」歌:青木由有子/ リコーダー:水元若/画:熊谷直人

 

「火の島の歌」(「オベロン」人魚の歌)青木由有子