〔鶯宿はこの月の夜を雪ふるらし〕
鶯宿はこの月の夜を雪ふるらし。
鶯宿はこの月の夜を雪ふるらし、 黒雲そこにてたゞ乱れたり。
七つ森の雪にうづみしひとつなり、 けむりの下を逼りくるもの。
月の下なる七つ森のそのひとつなり、 かすかに雪の皺たゝむもの。
月をうけし七つ森のはてのひとつなり、 さびしき谷をうちいだくもの。
月の下なる七つ森のその三つなり、 小松まばらに雪を着るもの。
月の下なる七つ森のその二つなり、 オリオンと白き雲とをいたゞけるもの。
七つ森の二つがなかのひとつなり、
月の下なる七つ森のなかの一つなり、 雪白々と裾を引くもの。
月の下なる七つ森のその三つなり、 白々として起伏するもの。
七つ森の三つがなかの一つなり、 貝のぼたんをあまた噴くもの。
月の下なる七つ森のはての一つなり、 けはしく白く稜立てるもの。
稜立てる七つ森のそのはてのもの、 旋り了りてまこと明るし。