今日8月27日は、現在の定説では宮澤賢治の誕生日とされている日です(戸籍上は、なぜか8月1日ですが)。
この賢治の誕生日を記念して、今日の Google日本 の検索窓の上には、銀河鉄道が描かれていましたので、ご覧になった方もいらっしゃるでしょう。
「Google に銀河鉄道!」、それから「今日が賢治の誕生日」というのは、今日の Twitter でもちらほら話題になっていたようですが、Twitter と言えば最近気づいたことで、ちょっと不思議なことがあります。
'Kenji Miyazawa'で Twitter を検索すると、"We must embrace pain and burn it as fuel for our journey." ~Kenji Miyazawa という「つぶやき」が、この10日間にUSAで少なくとも32件もあるんですね。
興味を引かれたので、この言葉を Google から Web 全体でも検索してみました。「1,570件」などという数のページがヒットします。
ということで、なぜかこの'Japanese poet'の言葉は、アメリカでもけっこう有名になっているようです。あちらでの受けとめ方としては、大事な人を亡くした後の悲嘆というような状況で、それを乗り越えていくための言葉として引用されていることが多いようですが。
◇ ◇
We must embrace pain and burn it as fuel for our journey.
[ 仮訳 ]
われわれは痛みを(苦悩を)受け容れて(抱きしめて)、それをわれらの旅の燃料として燃やさなければならない。
これはたしかに、心に響く箴言です。ただそれにしても、この Kenji Miyazawa 氏の言葉の出典は、いったいどの作品なのでしょうか。
ぴったり同じものがちょっと思いつかないのですが、たとえば「ポラーノの広場」の最後で、「ポラーノの広場のうた」として出てくる次の一節と、関係しているのでしょうか。
なべてのなやみを たきゞともしつゝ
はえある世界を ともにつくらん
(蛇足ながら、「たきゞともしつゝ」とは、「薪として燃やしつつ」の意です。)
あるいは、「小岩井農場」の終わり近くの一節にも、共通したモチーフがあります。
すべてさびしさと悲傷とを焚いて
ひとは透明な軌道をすすむ
アメリカにおいていつ頃から、賢治のどの作品のどの翻訳からこの言葉が広まっていったのか、私には興味が湧くところです。
karaokegurui
確かに賢治の詩のどこかにありそうな気はしますが、正確にどの詩のどの部分かと問われると、はて?ということになりますね。
ま、でも、賢治が英語圏でも広まるのはいいことだと思います(^_^
耕生
耕生です。
たしかに素敵な言葉です。
英語圏にこのような言葉が広まっているとは、ちょっとした新鮮な驚きです。
素直に受け取ると、おっしゃるように「ポラーノの広場」の歌曲の一節がもっとも近いようです。
この詩句から私が次に連想したのは、「銀河鉄道の夜」の中の最終場面、最終稿では削除されてしまいましたが、ガブリエル博士がジョバンニに語る次の言葉でした。
「さあ、切符をしっかり持っておいで。お前はもう夢の鉄道の中でなしに本当の世界の火やはげしい波の中を大股にまっすぐ歩いていかなければいけない。天の川のなかでたったひとつのほんとうのその切符を決しておまへはなくしてはいけない」
ロジャー・パルバースさんの英訳、"Night train to the stars"の中では次のように訳されています。パルバースさんは異稿のこの部分を捨てきれなかったようです。
"Now then, hold on tight to your ticket. From now on, you are not in a dream train any longer. You've got to forge ahead through the fires and the fierce waves of the real world. You must never lose the ticket. It's the one real thing in the Milky Way!"
この文章を思い切り簡単に意訳すると、ご紹介の英語の文章になるような気がします。
We must embrace pain and burn it as fuel for our journey.
[ 仮訳 ]
われわれは痛みを(苦悩を)受け容れて(抱きしめて)、それをわれらの旅の燃料として燃やさなければならない。
今、このコメントを書きながら思いました。
宮沢賢治にとって、決して放してはならない「銀河鉄道の切符」とは法華経だったのではないかということです。
人によりその切符の形は異なると思います。「大事な切符を握りしめ、真摯に生きていこう!」が、我々に対する賢治の究極のメッセージだったのではないかと思われます。
なんだか年甲斐もなく涙が出てきそうになります。
hamagaki
karaokegurui 様、耕生様、コメントをありがとうございます。
アメリカでも、ごく一部には賢治ファンもいるようですが、一般的にはまだ全くマイナーな存在です。
ところが、上に紹介した言葉だけは、非常に多くの場所で引用されていて、いわば「一人歩き」をしているような感があります。
このトレンドの源がどこにあるのか、調べてみようとしているのですが、どの引用も出典を明記していないので、なかなかわかりません。
ある時期に、何らかの「名言集・引用句集」のようなものに収録されて、それが孫引きされる形で広まっていったのではないかと思うのですが、具体的には不明です。
sasaki
宮澤賢治は法華経を信仰していました。
日蓮を師と仰ぐ「国柱会」にも出入りしていた時期があります。
日蓮の言葉に
「煩悩の薪(たきぎ)を焼いて菩提の慧火(えか)現前するなり」
(御義口伝)とあります。
英文の原典はともかくとして、賢治さんの心には、この日蓮の思想が脈打っているのだと思います。
hamagaki
sasaki 様、貴重なコメントをありがとうございます。
私は不勉強にして知らなかったのですが、日蓮の「煩悩の薪を焼いて菩提の慧火現前するなり」は、まさに賢治の「なべてのなやみを たきゞともしつゝ/はえある世界を ともにつくらん」の、着想の元となった一節と言っていいでしょうね!
霊艮閣版『日蓮聖人御遺文』を、常に座右に置いていたという賢治のことですから、こういう文章はしっかり頭に入っていはずです。
また一つ、日蓮から賢治に流れこんだ言葉の果実が、明らかになった感じで嬉しいです。
このたびは、本当にありがとうございました。