文語詩稿五十篇評釈 十

 甲南女子大学の信時哲郎さんが、この10年にわたって積み上げてこられたお仕事、「宮澤賢治「文語詩稿 五十篇」評釈」が、ついにこのたび完結しました。その最新稿は、Web 上において「宮澤賢治「文語詩稿 五十篇」評釈 十」で、読むことができます。信時哲郎さん、お知らせもいただきまして、ほんとうにありがとうございました。

 今回とりあげられた作品は、「〔玉蜀黍を播きやめ環にならべ〕」、「〔うからもて台地の雪に〕」、「〔残丘(モナドノック)の雪の上に〕」、「民間薬」、「〔吹雪かゞやくなかにして〕」の5篇です。これによって、賢治の文語詩の「第一集」というべき「文語詩稿 五十篇」が、すべて信時さんの評釈によって、読めるようになりました。じつに何という力強い「道案内」が完成したことでしょうか。(以前の評釈は、信時さんの「近代文学ページ」の「論文」のリンクから、読むことができます。)

 ご存じのように賢治の文語詩というのは、難解なものはとことん難解です。それを信時さんは慣れた手さばきで「順番に」俎板に載せ、まずは先行研究を能う限り踏まえ、またそこに信時さん独自の視点からの分析を加え、さらに時には実地調査も行って、背景の事情をつぶさに明らかにして行かれます。
 賢治の文語詩は、「定稿」の段階ではほんの小さな宝石のような形に凝縮されていますが、これらの「研究的」評釈の助けによって、私たちはその宝石の内部をのぞき込むことができ、するとその中には「貝の火」のように美しい光が彩をなして、一つの「世界」が広がっているのを見ることができるのです。

 Web 上で、このようなすぐれた評釈が無料で読めるというのも幸せなことですが、完結を期して、この『五十篇』の評釈集がぜひ単行本として刊行されることを、一賢治ファンとしては心から願うところです。
 そして、信時さんへのもう一つの(私の勝手な)期待は、次には「文語詩稿 一百篇」(実際には101篇)の「評釈」が、また Web 上にて着々と公開されていくこと、です。

 時々、神戸の方角を伏して拝みながら、じっくりとお待ち申しあげたいと思います。