『春と修羅』に収められた詩「グランド電柱」に、林光氏が作曲した歌曲を、「歌曲の部屋~後世作曲家篇~」にアップしました。歌声は、例によって Vocaloid です。
活き活きとしたピアノ伴奏による軽快な小品で、1991年9月に作曲されたそうです。この曲について林光氏自身は、「「グランド電柱」という詩も、いわば大真面目な大歌曲に仕上げてしまっては困るし、そうかといってただ軽いだけのものになっても仕方がない。ちょうどその中間にあるようなもの」と述べておられます(林光『作曲家の道具箱』一ツ橋書房)。林氏らしい、諧謔味のきいた作品に仕上がっています。
この詩では、田んぼや電柱を往復するたくさんの雀たちが主役になっていますが、曲の最初や中間や終わりに出てくる八分音符の動きはまるで、いっせいに飛びたったりとまったりする雀の動きを表しているかのようです。
ところで、賢治の童話「めくらぶだうと虹」、あるいはその改作形「マリヴロンと少女」の中には、「もずが、まるで音譜をばらばらにしてふりまいたやうに飛んで来て、みんな一度に、銀のすゝきの穂にとまりました。」という素敵な描写があります。林光氏のこの曲の楽譜の音符の並びを見ると、「まるで雀をばらばらにしてふりまいたやうに」見えたりしてしまいます。
下には、歌曲の MP3 と詩を掲載しておきます。
あめと雲とが地面に垂れ
すすきの赤い穂も洗はれ
野原はすがすがしくなつたので
花巻(はなまき)グランド電柱(でんちゆう)の
百の碍子(がいし)にあつまる雀掠奪のために田にはいり
うるうるうるうると飛び
雲と雨とのひかりのなかを
すばやく花巻大三叉路(はなまきだいさんさろ)の
百の碍子にもどる雀
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