「歌曲の部屋」に、「飢餓陣営のたそがれの中」をアップしました。賢治歌曲の新規編曲アップは久しぶりです。
詳しくは上記ページの説明を見ていただくこととして、とりあえずこの曲は「飢餓陣営」という賢治作・演出による劇の劇中歌です。真面目さと滑稽さの同居を楽しむ趣向の中で、この歌なども表面的にはまったく敬虔に厳粛に歌われるので、編曲もそれに合わせて至極凡庸なものです。
ところで第二次大戦中、どんなイデオロギーよりも痛烈にヒットラーを批判しえたのがチャップリンによる映画「独裁者」だったように、あるいはちょっと品は落ちるかもしれませんが、ブッシュ政権やイラク戦争に反対するアメリカのマイケル・ムーア監督の活動に見るように、「戦争」という究極の暴力に対抗するには、「笑い」の持つ本源的なエネルギーが、とりわけ大きな力になるでしょう。
賢治の「飢餓陣営」という作品は、軍隊組織や戦争などという営みを、こっぴどく笑いとばし、したがって私が思うには、賢治の作品では最も「反戦的」で「平和的」なのではないかと感じるのです。
『憲法九条を世界遺産に』(太田光・中沢新一,集英社新書)という本で論じられていたように、宮澤賢治は様々な「矛盾や葛藤」をはらんでいますが、彼のこんな健康的でお茶目な側面も、私は愛せずにはいられません。
彼は「国家主義的」な時期があった反面、やはり素朴な「平和的」思想も持っていたのです。
編曲上の小さな趣向として、賢治のこの平和への祈りの歌の最後に、ベートーヴェンの『ミサ・ソレムニス』から、「我らに平和を与え給え(dona nobis pacem)」という部分の旋律を埋め込んでみました。
『ミサ・ソレムニス』の終曲「アニュス・デイ」では、戦争を暗示するような軍楽調の部分が登場しては、「平和を!平和を!」という祈りの声が重ねられていきます。ベートーヴェン自身が、楽譜に「内と外との平和を願って」とドイツ語で書き込んでいるように、この曲は、通常の「ミサ」として宗教的な心の「平安」を求める音楽にとどまらず、外的世界の「平和」をも願う、作曲者の思いが込められているのだと言われています。
などと、講釈は勿体ぶっていますが、実際に聴いていただくと、どうということはありません(笑)。
下記からは、直接 MP3 を聴けるようにしました。
飢餓陣営のたそがれの中
犯せる罪はいとも深し
あゝ夜のそらの青き火もて
われらがつみをきよめたまへマルトン原のかなしみのなか
ひかりはつちにうづもれぬ
あゝみめぐみのあめをくだし
われらがつみをゆるしたまへ〔合唱〕 あゝみめぐみのあめをくだし
われらがつみをゆるしたまへ
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