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沢里武治氏演奏の「星めぐりの歌」

 『【新】校本宮澤賢治全集』第六巻に掲載されている「星めぐりの歌」の楽譜は、下記のようなものです。

新校本「星めぐりの歌」

 そして第六巻「校異篇」には、この楽譜について、次のような説明がなされています。

 本文には、昭和四二年版全集の楽譜を掲出した。ただし、沢里の記憶にもとづき、第三小節・第九小節にあったフェルマータ()を消している。

 すなわちこれは、以前に「「【新】校本全集」の歌曲の校訂について」というエントリで触れたように、この全集において新たに変更が加えられた楽譜の一つなのです。従来の全集では、「あかいめだまのさそ」の「り」と、「あおいめだまのこい」の「ぬ」には、フェルマータが付いていたのですが、それが削除されたわけですね。

 現在、私たちが通常「星めぐりの歌」を歌う時には、「あかいめだまのさそりー・・・、ひろげたわしのつばさー・・・」という風に、「さそり」の「り」は少し延ばして、次のフレーズまでに「間」をあけますが、『【新】校本全集』に準拠すれば、これは正しい歌い方ではなくなってしまったことになります。
 その変更の根拠となった「沢里の記憶」がどういうものであったのか、「校異篇」には上記以上の説明はありません。

 ところが、遠野市宮守地区で行われている「宮澤賢治と遠野」展において、沢里氏が「星めぐりの歌」を自ら演奏しておられるビデオが放映されていたのです。先日の岩手旅行で、係の人にお願いしてそれを録音してきました。
 このビデオは、1980年代にIBC岩手放送で放送された番組のようで、レポーターが沢里武治氏を訪ねて、賢治に関する様々な思い出を聞いたり、賢治の詩を朗読してもらったりするという内容です。
 この中に、沢里氏が自ら大正琴で、「星めぐりの歌」を演奏する貴重な映像が出てきます。下の MP3 ファイルが、その場面の録音です。

「星めぐりの歌」(沢里武治演奏)MP3: 151KB

 元のビデオの状態が悪く、かなり大きな雑音が混入していたため、雑音除去フィルターをかけましたので、音質が劣化しています。
 しかしこれこそが、「沢里の記憶」にあった「星めぐりの歌」です。

 聴いてみると、確かに「あかいめだまのさそ」の「り」と、「あおいめだまのこい」の「ぬ」の音が、通常歌われているものよりも短いですね。
 しかし、冒頭に掲げた『【新】校本全集』の楽譜とも1ヵ所だけ異なっていて、それは「あかいめだまのさそ」の「り」が、沢里氏の演奏では2拍あるのに、上の楽譜では1拍になっている点です。
 この沢里武治氏の演奏を、フェルマータを使わず「拍節どおりに」楽譜にしてみると、下記のようになります。

沢里武治演奏「星めぐりの歌」

 「わしのつば」の「さ」、「へびのとぐ」の「ろ」、「たかくうた」の「ひ」は、『【新】校本全集』のように四分音符にフェルマータを付けて記譜することでよいでしょうが、「さそり」の「り」の長さだけは、疑問が残ります。

 沢里武治氏は、『【新】校本全集』編集者の佐藤泰平氏に対してどのような「記憶」を伝えられたのか、具体的に知りたいものです。