丸善京都店閉店

 朝は、普代村の金子さんから、「一昨日のコンサートのことが岩手日報に出ているからファックスで送ります」という電話で目が覚めました。送られてきたファックスを見ると、けっこう大きな記事として取り上げていただいています。

 日中は、この3日間の旅行中のブログの更新とともに、コンサートにおける「敗れし少年の歌へる」の録音を、まず Podcasting の方で公開する作業をしていました。ビデオも何とか撮れているようですので、いずれ動画の方もサイトにアップしたいと思います。

 さて今日10月10日は、丸善京都店が閉店するということで、セールの最終日でした。午後に少しのぞいてみましたが、店内は人でいっぱいです。1階の入口近くでは、この丸善京都店を舞台にした梶井基次郎の『檸檬』にちなんで、1ダースほどのレモンが並べられ、レモンの図案のスタンプを押してもらうために行列ができていました。
 私が大学に入って田舎から京都に出てきた26年ほど前、河原町通りの丸善という店は、最も知的で都会的な香りを感じさせてくれる場所の一つでした。洋書売り場にはおびただしい原書が並び、文具売り場にある洗練された文房具の数々も、魅力的に輝いていました。梶井基次郎の作品に漂う旧制高校的なロマンティシズムさえ、その頃の京都の街には実際に流れていたかのような、そんな美化された記憶と結びついています。

 賢治も、以前にこの欄で触れたように、作品の清書のために丸善の原稿用紙を愛用していましたし、たくさんの洋書を東京の丸善に注文しています。家出した時には、その注文を解約することで当座の生活費になったほどです。1928年に上京した時の「丸善階上喫煙室小景」という作品からは、東京のインテリに対する小気味よい風刺とともに、彼がやはりこの空間を愛していたであろうことが読みとれます。

 今の丸善京都店の周囲には、色とりどりのファッションビルが建ち並び、ここが時代の雰囲気から離れてきていたのはわかりますが、京都からもこのような空間が消えてしまうのは、さびしいことです。