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「めぐるい」という形容詞

「牧馬地方の春の歌」「浮世絵 北上山地の春」(下書稿(一)) 先日、「牧馬地方の春の歌」の、「たのしくめぐるい春が来た」という箇所について疑問を書いたところ、「新校本全集」編集委員の杉浦静さんから直々にコメントをいただき、私の蒙を啓いて下さいました。
 「めぐるい」というのは、「めぐる」という動詞の誤記ではなくて、確かに賢治が意識的に用いている形容詞でした。この作品の前身である「北上山地の春」逐次形でも、「めぐるく」という形で二度にわたり記入されていますし(左写真)、「牧馬地方の春の歌」に関しては、右写真のように、やはり明らかに「めぐるい」と書かれています。
 また、「春と修羅 第三集」の「」という作品においても、「まるめろの香とめぐるい風に」と、記されています。
 左の草稿写真は、杉浦さんが別便のメールで送って下さった、賢治自筆草稿のコピーの一部です。

 そこであらためて、原子朗著『新宮澤賢治語彙辞典』を引いてみたところ、ちゃんと「めぐるい」という見出しがあって、「意味不明の語だが、花巻地方の方言にもなく、めぐる、めまぐるしい、めくるめく等の語に近い賢治の造語かと思われる」と、説明が付けられていました。
 これまでにも、これは多くの研究者がきちんと検討しておられた事柄だったのですね。

 それにしても、「めぐるい」という聞き慣れない言葉がいったいどういうものなのか、はたして本当に賢治の造語なのか、私もこれを機会にちょっと古語辞典などを調べてみました。すると、「まぐる(目昏る・眩る)」という下二段活用の動詞に行き当たりました。意味は、「目がくらむ」ということです。
 「ま」は、「まぶた」「まなこ」という言葉に残っているように「め(目)」の古形ですから、これはひょっとすると「めぐるい」という形容詞と関係があるのかもしれません。もしそうだとすると、小沢俊郎氏が「新修全集」月報において、これを「まばゆい」の意か、と注しておられるという解釈に近くなります。

 いずれにせよ、懇切なコメントと資料を下さった杉浦静さんには、心から感謝申し上げます。