「農民芸術概論綱要」墓碑
1.テキスト
世界がぜんたい
幸福に
ならないうちは
個人の幸福は
あり得ない
宮沢賢治
宮澤賢治研究家 吉田精美 墓碑
2.出典
「農民芸術概論綱要」より
3.建立/除幕日
2013年(平成25年)9月 建立
4.所在地
岩手県一関市千厩町小梨舘前81 洞雲寺墓地
5.碑について
吉田精美編著『新訂/全国編 宮沢賢治の碑』(花巻市文化団体協議会刊, 2000)は、私が全国各地にある賢治の文学碑を巡るにあたって、ページがすり切れるほど何度も繰っては、お世話になった本です。
また吉田さんは、写真の腕前もプロ級で、2017年には宮沢賢治イーハトーブ館において、企画展「吉田精美のイーハトーブ真景―賢治の心象風景を追い求めた写真家」も開催されました。
吉田精美さんは、1928年に岩手県千厩町に生まれ、仙台工業専門学校(現・東北大学工学部)を卒業後、1950年から岩手県各地の高校で、数学教師を務められました。1989年に、賢治の妹トシも教鞭をとった花巻高等女学校の後身、花巻南高校での勤務を最後に退職し、その後は全国の賢治詩碑の調査・記録・撮影に、取りかかられたわけです。
宮沢賢治の素晴らしさを、多くの人々に伝えようと情熱的な活動を展開された後、今は故郷千厩町の洞雲寺で、安らかに眠っておられます。その墓碑は、賢治の碑を撮り続けた吉田さんにふさわしく、彼の「農民芸術概論綱要」の碑になっています。
賢治の言葉が記された墓碑というと、「絶筆短歌」を刻んだ小倉豊文氏の墓碑が思い出されますが、この吉田精美さんのお墓も、故人のお人柄を忍ばせる美しいものです。
ところで、冒頭に掲げた『新訂/全国編 宮沢賢治の碑』の表紙には、やはり「農民芸術概論綱要」の「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という言葉が刻まれた平塚市の碑の写真が載せられていて、ご覧いただいたら一目瞭然のように、その円い外観が似ている上に、テキストの改行の位置は、全く同じです。
きっとこの言葉は、生前の吉田さんが最も大切にしておられたものなのかもしれません。
一関市千厩町にある洞雲寺は、曹洞宗のお寺で、JR千厩町の駅からは3kmほど山の方に行ったところにあります。私は、2018年の8月15日に吉田精美さんのお墓にお参りして、これまでの賢治詩碑めぐりでのご恩のお礼を申し上げてきました。
洞雲寺本堂