「農民芸術概論綱要」碑
1.テキスト
世界がぜんたい
幸福に
ならないうちは
個人の幸福は
あり得ない
宮澤賢治
2.出典
「農民芸術概論綱要」
3.建立/除幕日
1983年(昭和58年)3月26日 建立
4.所在地
神奈川県平塚市浅間町 平塚市文化公園内
5.碑について
めずらしい球形の石碑です。
そこに書かれている、「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」とは、宮澤賢治という人の考えのある側面を典型的に表す言葉として、よく引用もされるものです。
しかし、あらためて冷静に考えてみると、これはなんと厳しい言葉でしょう。世界各地での戦争や飢餓のことを思えば、「世界がぜんたい幸福になる」ということは当分は無理でしょうから、結局、今の世界を生きているすべての人は、死ぬまで幸福になることは「あり得ない」ことになってしまいます。しかしいくら何でも、賢治はそういうことが言いたかったのではないでしょう。
あるいは、もしもこの言葉を一つの社会に適用すると、「個人の幸福」よりも「全体の幸福」を優先する根拠となって、いわゆる「全体主義」の社会にになってしまいます。ですからこのような主張が政治的に利用されたら、たいへん苦しいことになります。
しかしおそらく賢治は、このような考えを他人に押しつけるつもりは毛頭なく、これは彼の個人的な心情の、悲痛な表現だったのでしょう。「〔堅い瓔珞はまっすぐに下に垂れます〕」(『春と修羅』補遺)という作品において、「いちばん強い人たちは願ひによって堕ち/次いで人人と一諸に飛騰しますから。」と書かれているように、「菩薩行」の思想を述べているのかと思ったりもします。
神奈川県平塚市は、1984年に花巻市と「友好都市」の協定を結んでいて、この碑は、両市の親交が末永く深まることを願い、平塚ライオンズクラブが建てたものだそうです。
碑石の球形は、地球と宇宙を表し、その下の6本の台座は、世界の「六大洲」を表しているのだそうです。