「葱嶺先生の散歩」(「春と修羅 第二集補遺」)の中の、「地面行歩にしたがって/小さい歪みをつくる」という表現の意味が、以前から気になっていました。
葱嶺先生の散歩
気圧が高くなったので
昨日固態の水銀ほど
乱れた雲を弾いてゐた
地平の青い膨らみも
徐々に平位を復するらしい
しかも国土の質たるや
それが瑠璃から成るにもせよ
弾性なきを尚ばず
地面行歩に従って
小さい歪みをつくること
あたかもよろしき凝膠なるごとき
これ上代の天竺と
やがては西域諸国に於ける
永い夢でもあったのである
〔後略〕
この部分は、先駆形の「亜細亜学者の散策」(「春と修羅 第二集」)では、「地面が踏みに従って/小さい歪みをなす」となっていて、いずれも地面が「凝膠」でできているような「弾性」があるために、「地面を踏んだら、その箇所が凹む」ということのようです。
昔の天竺や西域の人々が、こんな「ぶよぶよ」した感じの地面を「永い夢」としていたというのは、いったいどういうことなのだろうと不思議に思っていたのですが、最近これと関連しているかと思われる表現に、遭遇しました。
来たる9月14日(日)に、岩手県下閉伊郡普代村において、文化講演会「詩と歌でつながる、ふだいと百年前の賢治の世界」が開かれます。
当日は、私が「百年前、賢治は三陸で何を思ったか─1925年三陸旅行中の作品を読む─」と題した講演をさせていただき、地元の「てぼかい合唱団」によって、合唱曲「発動機船 一」のお披露目も行われます。
下のチラシは、クリックしていただくと別ウィンドウで拡大表示されます。

今日は、先月の宮沢賢治学会夏季セミナー「賢治文学の奏でるうた」で使用したスライドを、いくつか紹介させていただきます。
私が担当した基調報告「宮沢賢治と音楽」では、(1)「賢治の音楽体験と歌曲創作」、(2)「賢治作品における「語り」と「歌」の連続性」、という主に二つの話題について、お話をしました。

1.ヒデリノトキ
今年の夏は、日本最高気温の記録が二度も更新されるなど、全国的に未曾有の猛暑となっていますが、実は盛岡市の最高気温も、今年101年ぶりに「史上タイ記録」が観測されました。
これまで盛岡市の最高気温の記録は、1924年7月12日に観測された「37.2℃」だったのですが、先日8月3日にも、同じ「37.2℃」を記録したのです。
盛岡で101年前の記録に並ぶ最高気温37.2度(岩手日報)
下に、気象庁のサイトをもとにして、盛岡市の最高気温の歴代5位までを、グラフにしてみました。5位までのうち3つが今年の記録で、いかに今年が猛暑かということがわかりますが、しかしその一方で、101年間首位を守っている「1924年」という年も、相当なものではないでしょうか。
盛岡市最高気温ベスト5

まだ「地球温暖化」などという概念さえなかった101年も昔にあって、今年の暑さと同気温を記録した1924年とは、いったいどんな年だったのでしょうか。
盛岡駅からほど近く、北上川に架かる開運橋の東のたもとに、「開運橋の歴史」と題された説明板が立てられています。

その冒頭には、賢治の下記の短歌と説明が記されています。
そら青く
開うんばしの
せとものの
らむぷゆかしき
冬をもたらす
宮沢賢治
この短歌は宮沢賢治が二
代目開運橋の袂に設置さ
れた瀬戸物製のランプを
眺め詠んだものです。
去る7月30日に、今年度第35回の宮沢賢治賞・イーハトーブ賞が、花巻市から発表されました。(花巻市による広報記事)
受賞者は、下記の方々です。
- 《宮沢賢治賞》
加倉井 厚夫 さん
アクセス数100万件を越える個人ブログサイト「賢治の事務所」を運営し、賢治と天文学を初めとする自身のエッセイや論考を発表、併せて宮沢賢治に関連する多彩な情報を紹介して、現代的なメディアによる先駆的な研究発信を約30年間にわたって行っている業績に対して。
7月26日の賢治学会夏季セミナーが終了すると、イーハトーブ館からみんなでバスに乗り、懇親会会場のマルカンビル大食堂に移動しました。夜の7時頃になると、ビル6階の窓からは、鮮やかな夕焼け空が見えました。

昨日から賢治学会の夏季セミナーで花巻に行っていましたが、やはりイーハトーブの地でも、「暑いですねぇ……」がお決まりの挨拶になっていました。
花巻市や北上市に農業用水を供給する豊沢ダムは、最近の高温と少雨の影響で貯水量が平年の半分程度の30%まで下がり、7月23日から農業用水の供給を停止するなど、渇水対策を行うとのことです。
岩手 高温と少雨で豊沢ダム渇水対策 農業用水の取水制限へ(NHK 岩手 NES WEB)
賢治の時代ならば、「ヒデリノトキハナミダヲナガシ」となる事態でしょう。現代でも、農家の方々にとっては死活問題でしょうし、消費者にとってもまた米や野菜の価格高騰が心配されます。
しかしこの渇水のおかげで、花巻市小舟渡の「イギリス海岸」は、久しぶりに河床の泥岩層が広く露出することになりました。
イギリス海岸出現 晴れの日が続き、水位が下がったため 岩手・花巻市(IBC岩手放送)
音楽学者の小泉文夫氏(1927-1983)が用いた概念で、「エンゲ・メロディー型」の旋律というのがあります。これは定義としては、一つだけの核音(nuclear note)を持つ旋律ということですが、日本の伝統音楽の中で具体的には、「わらべ唄」や「子守歌」に見られるような、「二音旋律」または「三音旋律」など、ごく単純な旋律を指すことが一般的です。
「二音旋律」のわらべ唄として、小泉氏は次の例を挙げておられます。これは、「ド」と「レ」の二つの音だけから成っています。

花いちもんめ
旧版の『校本宮澤賢治全集』は、「賢治が残した草稿を(走り書き的なメモに至るまで)全て掲載する」という画期的な方針のもとに徹底的な草稿調査を行い、様々な新たな発見も加わった結果、多くの作品において、従来の全集のテクストから大きな変更が行われました。
この際の変化に比べると、『校本全集』から『新校本全集』に改訂された際のテクストの変更は、まだしも小規模なものだったのですが、ただ「歌曲」の項目においては、『新校本全集』において相当に大幅な変更が行われました。
収録曲数が、『校本全集』の21曲から、『新校本全集』では27曲へと、大きく増えたこともありますし、「替え歌」の「原曲」が新たに発見されたことによって、楽譜が全く変更された曲もありました。
さらに、「曲名」が変更された曲も、次のように6曲ありました。