「米澤ポランの廣場」最終号

 「宮沢賢治学会イーハトーブセンター功労賞」とは、「宮沢賢治の存在と作品に触発されて、多年に渉り様々な普及や研究活動を重ねてきた個人または団体を対象に」、その功績を顕彰するために、同センターが2016年に設けた賞です。第8回となる今年度の受賞者は、「栃木・宮沢賢治の会」と「米澤ポランの廣場」でした。
 どちらの団体も、賢治作品の読書会を根幹に据えて、長年にわたり工夫をこらしつつ、息の長い研究・普及活動を積み重ねられた成果が、今回の受賞に至ったのだと拝察します。去る9月22日に花巻で行われた賞贈呈式後の懇親会の場では、両団体の皆さんといろいろ賢治談義に花を咲かせることができて、幸せな時間を過ごさせていただきました。

 下の写真は、賞贈呈式における「栃木・宮沢賢治の会」の、「受賞者あいさつ・活動内容紹介」の一コマです。

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 そして、もう一つの「米澤ポランの廣場」は、33年余りという全国でも指折りの長い活動実績をもつ団体でしたが、ちょうど今年をもって解散(あるいは「散開!」)することを決めておられた中での、「有終の美」を飾る受賞となりました。代表の本間哲朗さんをはじめ会員の皆さんからは、懇親会で様々なお話をお聞かせいただきました。

 それにしても、これほどの長期間にわたって一人の方が、代表として会員の精神的な支柱となりつつ、活動の企画や毎月の活動報告の執筆・編集・印刷・発行等の実務作業も行ってこられたというのは、本当にものすごいことだと思います。本間さんのこれまでの活動には、頭が下がりました。

 その後、日常生活に戻りつつも花巻の余韻をかみしめていたところ、つい先日、本間さんからのメールとともに、封筒に入った『米澤ポランの廣場IX 最終号』が送られてきました。
 美しい表紙には、銀河鉄道や、山猫軒(のような本間代表宅)や、めがね橋や、山の上で人々が手を振っているあの賢治自筆画をモチーフにしたペン画が描かれ、ずっしりとボリュームのある200頁もの記念誌です。

 ページをめくると、「小論」として会員の皆さんが執筆された賢治論が並んでいて、とても読み応えがあります。どの論も、世の中のありきたりの賢治像にとらわれずにじっくりと作品を読み込んだ上で、それぞれご自身の体験に照らし合わせつつ書かれたもので、味わい深いものでした。
 あらためて思えば、こうやって日本各地の町や村で暮らす人々が、それぞれに賢治の作品を読んでは思索を深めているというのは、おそらく他の作家にはないだろうことで、やはり宮澤賢治という存在には、何かがあるのかなと思ったりします。

 次の章の「つどいの廣場」というコーナーでは、各会員が賢治作品の個人的ベスト3を挙げ、あわせてこれまでの会の活動や賢治について、思いを綴っておられます。
 試みに、11名の会員が挙げておられるベスト3を集計してみると、票の多かった作品のベスト3は、次のようになっていました。

  • 1位:虔十公園林(5票)
  • 2位:なめとこ山の熊(4票)
  • 3位:銀河鉄道の夜(3票)

 一般的に有名な賢治作品よりも、「虔十公園林」と「なめとこ山の熊」が上位に入っているところは、この「米澤ポランの廣場」の皆さんの賢治に対するスタンスを、象徴しているのではないでしょうか。東北の米沢という地域性もあるのかもしれませんが、大げさに言えば、会員の方々の「生活」や「思想」にもつながるのかもしれません。

 この後の章に、「合同句集」があるのも楽しくてユニークです。ここにも、会員の皆さんの生活や思想が垣間見えます。

 最後の「資料」の章には、351号から最終400号までの「米澤ポランの廣場通信」の縮刷、廣場の全道程、廣場で読んだ全作品表が掲載され、会の活動の貴重な記録となっています。
 そして、山形新聞と河北新報が、米澤ポランの廣場の今回の受賞と「有終の美」を報じた新聞記事の複写、さらに巻末の「付録」で山形新聞が伝える最後の読書会の様子やコラム記事は、まさにこの記念誌最終号に、花を添えています。

 この『米澤ポランの廣場IX 最終号』は、下記でそのPDF版が閲覧できますので、皆さまもどうぞご覧いただければと思います。

 また、本間哲朗さんのウェブサイトに掲載されている記事「記念誌『米澤ポランの廣場IX 最終号」には、会の点景の写真や、本間さんによる説明が綴られています。

 このような会が解散(散開)してしまうというのは、賢治を愛する者の一人として一抹の寂しさはぬぐえませんが、会員の方々が「会が終わっても賢治を読みつづけたい」と語っておられたことで、私も力づけられています。

 本間哲朗さんと会員の皆さま、長い間お疲れさまでした。
 「米澤ポランの廣場」という会そのものは、銀河鉄道に乗って旅立ったのでしょうが、下の絵の右下の山上で列車に手を振っている人々は、元会員の皆さんであり、また全国の賢治ファンたちなのだと思います。

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