萩京子作曲「五がつははこだてこうえんち」

 「凾館港春夜光景」の一部に萩京子さんが作曲した「五がつははこだてこうえんち」を、VOCALOID の歌と様々な楽器で演奏してみました。

五がつははこだてこうえんち
       宮澤賢治作詩・萩京子作曲

  ……五がつははこだてこうえんち、
    えんだんまちびとねがひごと、
    うみはうちそと日本うみ、
    りゃうばのあたりもわかります……
夜ぞらにふるふビオロンと銅鑼、
サミセンにもつれる笛や、
繰りかへす螺のスケルツォ
あはれマドロス田谷力三は、
ひとりセビラの床屋を唱ひ、
高田正夫はその一党と、
紙の服着てタンゴを踊る

 萩さんの元の曲はピアノ伴奏なのですが、曲の雰囲気を勘案してアコーディオン伴奏に替えるとともに、詩の中に登場する「ビオロン(ヴァイオリン)」「銅鑼」「サミセン(三味線)」「笛(フルート)」なども加えてみました。

 本年8月に刊行された『萩京子ソング集 旅するうたたち1』に、萩さんが書いておられる作品解説には、次のようにあります。

五がつははこだてこうえんち(1993)

 宮澤賢治の長篇詩「凾館港春夜光景」。1995年には詩全体に作曲するのだが、まずは浅草オペラの香りが漂う一部分に作曲し、「五がつはこだてこうえんち」とした。大正12年に賢治が上京した際、浅草オペラを見たと言われている。賢治が見たであろう浅草オペラを想像することで、不思議な高揚感が沸いてくる。浅草オペラはヨーロッパの音楽だったわけだし、モダンな香りが漂ったことと思うが、この詩は函館港の夜の賑わいと郷愁のような感覚に引きずられて、このような曲になった。1993年2月2日、こんにゃく座「私の青空・ケンジのエノケン」で初演。浜離宮朝日ホール。

 まさに、「不思議な高揚感」が迫ってくる曲ですね。詩作品として「凾館港春夜光景」を味わう際にも、こういう雰囲気をイメージしてみるというのは一興でしょう。

 この詩は、賢治が1924年に農学校の生徒たちを引率して北海道に修学旅行に行った際の作品ですが、港近くの公園の夜桜はライトアップされ、北国の遅い花見を楽しむ人々が、たくさん集って酒を酌み交わしているようです。辻占八卦もあやしげな口上を並べ立て、賑やかで猥雑な雰囲気が色濃く漂う様子から、賢治は浅草オペラの田谷力三や高田正夫なども連想したのかと思われます。

 なお本日、「歌曲」≫「後世作曲家の賢治歌曲」≫「萩京子ソング集」のページに、この曲を追加しました。

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