吉田重滿さんが監督・制作された劇映画『愁いの王 -宮澤賢治- 』の、「世界初の一般公開」が、来たる3月9日(土)に、盛岡劇場メインホールにて行われます。
この『愁いの王 -宮澤賢治- 』は、吉田重滿さんが企画・構想から40年の歳月をかけて完成された映画で、第一部「業の花びら」と第二部「装景者」を合わせて、上映時間は3時間18分に及びます。
その制作手法については、公式サイトの上映のお知らせのページにて、次のように解説されています。
賢治の宇宙観・死生観を描き出すために、表現技法にも独特の工夫を凝らし、オフスクリーン手法による全カット固定ショットのモノクローム映像、モンタージュの駆使等、芸術性の高い映像を作り出している。また、出演者は非俳優の一般人で、芝居めいた演技を排し、感情を込めない、登場人物になり切らない等、画期的な試みがなされている。
私は、吉田重滿さんのご厚意で、この映画をDVDにしたものを一昨年12月にお送りいただいて拝見したのですが、全編に非常に深い精神性が湛えられ、まさに「重厚の極み」とも言うべき作品になっています。音楽は、すべてJ.S.バッハの作品が用いられていますが、これもまたこの映画の性質を象徴しています。
上にも引用した上映のお知らせのページには、吉田重滿さんご自身が、昨年5月に岩手大学宮澤賢治センター定例研究会で講演された内容が掲載されていて、ここにこの映画の「企画」と「構想」が、まとめて述べられています。私としては、この映画の第二部が「装景者」と題され、吉田さんご自身も、「こういう事をいっては何ですが、私自身も映画を撮ることは、ある意味、装景するつもりで撮っています」と言っておられるところに、この映画の基本的スタンスが示されているように思います。
ところで、今度の上映会が開かれる「盛岡劇場」は、その昔1913年に東北地方初の近代的演劇専用劇場として開館したもので、賢治自身も一時は足繁く通い、ここでチャップリンの映画や少女歌劇を見たと言われています(Wikipedia「盛岡劇場」より)。
現在の盛岡劇場は、いったん昔の建物が取り壊された後、1990年に新築されて再オープンしたものですが、その場所は賢治の当時と同じで、この映画を「世界初の一般公開」するには、まさにふさわしい場所だと思います。
映画の予告編は、公式サイトから3種類を見ることができます。下にはその1分半のものを貼っておきますので、まずはとにかく一度、ご覧になってみて下さい。現代にあふれる商業的な映画とは、手法の点でも全く一線を画するものですが、賢治の精神性や宗教的側面に関心のある方には、お薦めさせていただきます。
しなこ
普段の生活の中で、それほど考えながら生きているわけではないのですが、こういった視覚的なものにふれると、賢治さんへの思いが溢れてきて、この映画をものすごく見たい、けど、見たくないかもしれない、いや、やはり見たい、けど見るのがこわい、でも、見たいんですよねやっぱり。(すみません、わけわからないですよね)
盛岡まで見に行きたい気持ちでいっぱいですが遠くて・・・
別の場所で上映予定はないのでしょうか。HPには書かれていないようですね。
hamagaki
しなこ様、コメントありがとうございます。
「ものすごく見たい」、けど「見るのがこわい」というのは、私もわかる気がしますし、鋭いところを突いておられる気がします。
予告篇からも少し感じていただけるかとは思いますが、実際のところ、この映画の映像や台詞まわしや雰囲気は独特で、見ようによってはかなり「こわい」感じなのです。
「夢に出てきそう」なシーンも、いくつかありますw。
しかし、一見すると無邪気そうな宮沢賢治の童話や、賢治という人そのものに、本当はそういうちょっと「こわい」感じが秘められていると思いますので、そういう賢治の底知れないような深さに興味がある方にとっては、いろいろなことを考えさせてくれる映画だと思います。
ただ現時点では残念ながら、盛岡以外の公開予定は、まだないようですね。
しかし、今回の上映でそれなりの反響があり採算の見通しが立ってくれば、きっと他の各地でも上映が行われることになる可能性はあると思います。
その意味でも、この3月9日の盛岡での上映が、盛況となることをお祈りしています。