昨夜は、東京の「宮沢賢治研究会」において、「宮沢賢治の他界観 ―その非仏教的側面と現代的意義―」というタイトルで、発表をさせていただきました。少し時間を超過して質問時間が十分に取れず、出席者の皆様にはご迷惑をおかけしましたが、その限られた時間でもその後の懇親会でも、質問やご指摘をいろいろといただけて、私としてはとても有意義な機会となりました。
それにしても、宮沢賢治学会の前々代表理事、前代表理事、現代表理事をはじめ、居並ぶ錚々たる研究者の方々の前で発表する機会をいただけたことは、光栄な体験でした。
ところで、今回は所用のために研究会は欠席されていてお会いできなかったのですが、同会の会員で、以前からお世話になっている大角修さんから、このたび新刊『全品現代語訳 法華経』(角川ソフィア文庫)を、ご恵贈いただきました。 大角さん、ありがとうございました。
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私も賢治を愛好する者の端くれとして、時には『法華経』を参照しないわけにはいきませんので、これまでは岩波文庫から上中下3冊組みで出ている『法華経』を買って、いちおう書棚には並べておりました。この岩波文庫版は、偶数頁には鳩摩羅什による漢訳『妙法蓮華経』の原文および書き下し文を、奇数頁にはサンスクリット語原典からの口語訳を掲載するという体裁になっていて、異なったニュアンスの二つの翻訳を比較して検討することもできるようになっています。きちんとした論文を書く時の典拠とするというのならば、このような本がよいのかもしれませんが、しかし3巻で計1300ページ以上にわたるそのボリュームは、私などのような素人がちょっと読んで、『法華経』のイメージをつかもうなどという目的には、あまりにも大部なものでした。
そこに、このたび出た大角修さんの訳本ですが、 これは長大な法華経の中に繰り返し出てくるリフレインを適宜簡約化したり、すでにイメージも失われたような神々の名前は省略するなどして、400ページ台の文庫本1冊の中に、「法華経」の全品と、開経の「無量義経」、結経の「観普賢菩薩行法経」を収めているのです。なおかつ、要所要所には仏教的な背景や日本における受容の歴史などについて、わかりやすく解説した34もの「コラム」や、様々な図版も挿入されていて、読む者を飽きさせない作りになっています。
さらに、賢治ファンにとってありがたいことには、そのコラムの中には宮澤賢治と法華経の関連に触れた文章が、2つも入っているのです。
大角修訳『法華経』より(p.316-317)
「おわりに」によれば、大角さんは、訳文の言葉のイメージをできるだけ新鮮なものにするために、賢治の「雁の童子」の朗読CDを繰り返し聞くという作業も行っておられたのだそうで、そう思って本文を読むと、何となくそんな雰囲気も漂ってくるような気がしてきます。
というわけで、この大角修さんの『全品現代語訳 法華経』は、これまで仏教の経典などには馴染みがなかった賢治の読者が、いったい「法華経」の中にはどんな世界が広がっているのかを体感し、その中に分け入っていくためには、うってつけの1冊と言えるのではないかと思います。
ちょうどこの4月には、NHKの「100分 de 名著」シリーズにおいて、「法華経」が取り上げられていますので、手元に置いて視聴の参考にするのもよいかもしれません。
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