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映画『幕が上がる』の劇中劇「銀河鉄道の夜」

映画『幕が上がる』

 私は、最近のアイドルグループの中ではももクロが一番好きなんですが、そのももいろクローバーZが主演する映画『幕が上がる』が現在公開されているので、今日映画館で見てきました。

 この映画は、女子高の演劇部のメンバーたちが全国大会を目ざして演劇に打ち込む中で、孤独や人との関わりに悩み、成長していくという物語で、ももクロのメンバーがそれぞれ生身の高校生を、切実に演じています。そして彼女たちが、大会に向けて取り組んでいく作品が、主人公役が思いの丈をぶつけて脚本化した「銀河鉄道の夜」であるということで、私としてはその意味でも、ぜひ見ておきたかったのです。

 アイドルを主演に据えて制作した映画なんていうと、内容は学芸会の延長のような感じがするかもしれませんが、この映画はそんなものではありません。映画監督の大林宣彦さんは、この映画を見て次のように語っておられます。

最初は、近くにいそうな普通の女の子に見えて、「この子たちと2時間付き合うのはつらいぞ」と思ったんです。でも、映画が進んでいくにつれてどんどんチャーミングになり、見終った時には、ハグしたいくらいになっていた。[中略]プロの女優になっていく過程を、ドキュメンタリーのように見ることができる。それが、この映画を感動させる大きな力になっていると思います。(『日経エンタテインメント』3月号)

 ということで、大御所も相当に評価しておられるのですが、そもそもこの映画は、今の日本を代表する劇作家・演出家の一人である平田オリザさんの小説をもとにしています。一方、「踊る大捜査線」などの大ヒット作を持つ映画監督の本広克行さんは、そのヒットから10年近くが過ぎた頃、映画監督を辞めようかと思い悩む時期もあったということですが、平田オリザ氏の「現代口語演劇理論」と出会い、その方法論に新たな可能性を見出し、平田さんの演劇にも関わり始めます。そして平田オリザ氏の小説『幕が上がる』を読んで感動し、これを自分の作った青春ドラマや映画で一番見たくなる作品にしなくては、という異常な使命感を持ち」(監督コメントより)、映画化にこぎつけたのだということです。
 本広監督が主演に抜擢したももクロのメンバーは、25時間にわたって平田オリザ氏の演劇ワークショップを受けて参加したということで、まるで「演技」か「地」かわからないほどの自然さを醸し出していましたし、弱小演劇部を大きく変えるきっかけとなる新任の美術教師を演じた黒木華さんも、素晴らしい存在感でした。あと、控えめながら国語の先生もいい味を出していて、授業の中で「銀河鉄道の夜」だけでなく、賢治の「告別」や、谷川俊太郎の「二十億光年の孤独」などを取り上げています。

 中でも、主人公たちが情熱をかけて取り組む「銀河鉄道の夜」が、重要な劇中劇として、なくてはならない意味を帯びつつ生かされていたことが、個人的には最大のポイントでした。宮澤賢治は、「銀河鉄道の夜」という作品にさまざまな多次元的な意味をこめていただろうと思いますが、この映画においては、宇宙の中にたった一人いるような「孤独」や、「人とのつながり」や「別れ」に悩む少女たちの思いが、ジョバンニとカムパネルラとの関係に投影されていきます。大会へ向けて稽古を重ねるうちに、彼女たちがどんどんジョバンニに感情移入していく様子には、切ないものがありました。

 ということで、ももクロファンならばもちろんのこと、賢治ファンの方も、もしもお暇があればご覧になってみてはいかがでしょうか。

 下の映像は、劇中劇部分の「銀河鉄道の夜」の抜粋で、県大会の「本番」や、稽古場面などがつなぎ合わされています。
 個人的には、最後のところの「クルミ」がちょっといい感じがします。賢治にとってもこれは、思い出深い木の実でしたものね。

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