神田区仲猿楽町

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 図書館で調べもののついでに、1919年(大正8年)刊行の『白秋小唄集』という古い小さな素敵な本を見つけました。
 文庫本ほどの大きさで、ハードカバーの布装。表紙の縁は立体的に丸みを帯びています。

『白秋小唄集』(1)

『白秋小唄集』(2)

『白秋小唄集』

 すべてのページが、ご覧のようにアール・ヌーヴォー調の赤い蔓の図案で囲まれていて、お洒落ですね。装幀は矢部季という人で、北原白秋周辺の詩人だったようです。この人は他にもいろいろな本の装幀をしたり、後には資生堂の意匠部に入ってデザインの仕事をしています。あの資生堂のマークにも、ちょっと似た雰囲気を感じたり。

 「アルス」という出版社は、北原白秋の実弟・北原鐵雄の創業で、昭和初期に白秋の全集も出しています。奥付を見ると、その住所は、「東京市神田區仲猿樂町十五番地」とあって、これは賢治が1916年(大正5年)の夏に通った「東京独逸学院」の住所「神田區仲猿樂町十七番地」の、ほんの近くではありませんか。
 1916年当時はまだ「アルス」ではなく「和蘭陀書房」という名前だったようですが、中学生頃から北原白秋にも興味を持っていた賢治は、独逸学院の帰りなどに、この書房ものぞいてみたりしたでしょうか。

 (なお、「仲猿楽町」は慣用的表記で、正式には「中猿楽町」のようです。)