京の花散歩―宮沢賢治の植物たち

藤田惠子ボタニカルアート展

賢治の童話の中でいつも大切な役割を果たしてくれる植物たち。
植物画で賢治の世界のひとコマを描いてみました。(展示案内より)

 「富小路三条上ル」ですから、「京都における賢治の宿(2)」の「要庵 西富家」の前から、富小路通をちょうど273mほど北へ行ったところです。
 西富家と同じく通りの西側に、上の写真のような入り口があって、この細い路地が「ギャラリーh2O」につながっています。今日はこのギャラリーで、「藤田惠子ボタニカルアート展『京の花散歩―宮沢賢治の植物たち』」という展覧会を見てきました。
 上のかわいい「のれん」が示してくれているように、路地の奥からは、清新な空気が吹いていました。

 藤田惠子さんは岩手県盛岡市のご出身だそうですが、「京の花散歩」というタイトルのように、京都の町なかで出会った、賢治の作品と関連するさまざまな植物を、美しい絵にして紹介してくださっています。
 「ボタニカルアート」とは、単に「植物の絵」というだけではなくて、「植物学的に」正確であることを基本とした、しかしもちろん同時に美術でもある図譜のことなんですね。
 今回、藤田惠子さんが賢治作品との関連で取り上げられたのは、

  • チュウリップ
  • アネモネ
  • オキナグサ
  • タチバナ
  • スズラン
  • ヒナゲシ
  • トウガラシ
  • ハクウンボク
  • アワ
  • ヒエ
  • キキョウ
  • カワラナデシコ
  • ヤナギ
  • タケノコ

という植物たちです。
 その精密な絵を一枚一枚見ていくと、科学者でもあると同時に芸術家でもあった賢治自身のことを、連想しました。

 少しだけ藤田惠子さんご本人とお話できたのですが、「賢治に関する研究はまだ不十分かもしれないけれど…」と謙遜なさったあと、「でも植物学的には正しい絵です」とおっしゃった言葉は、賢治が草野心平に送った書簡にあったという一節、「わたくしは詩人としては自信がありませんが、一個のサイエンティストとしては認めていただきたいと思います」という文言を、まさに彷彿とさせました。

 ところで上の植物のうちで、「タチバナ」と「タケノコ」は、賢治が盛岡高等農林学校の修学旅行で京都に来た際の、

日はめぐり
幡はかゞやき
紫宸殿たちばなの木ぞたわにみのれる

山しなの
たけのこばたのうすれ日に
そらわらひする
商人のむれ

という短歌にもとづいていて、彼が実際に「京都で」目にした植物です。
 そしてちょうどその際に、賢治はこのギャラリーからすぐ近くの旅館に泊まっていたというのも、不思議な縁です。

 「藤田惠子ボタニカルアート展『京の花散歩―宮沢賢治の植物たち』」は、11月8日(日)まで、中京区富小路三条上ルの「ギャラリーh2O」で開催中。時間は12:00-19:00ですが、最終日は17:00までとのことです。

藤田惠子ボタニカルアート展