今朝の『岩手日日新聞』には、昨日「イーハトーブ賞奨励賞」を受賞した桑島法子さんの記事が、とりわけ大きく載っていました。当該記事への下のリンクは、しばらくは生きていると思います。写真は、壇上で賞を受け取るところでしょうね。
さて今日は、9時からイーハトーブ館で「宮沢賢治研究発表会」です。演題は、「『雨ニモマケズ』を『十界互具論』より見た一考察(その二)」、「『銀河鉄道の夜』第四次稿成立についての一試論』、「闘争の空へ―宮沢賢治『春と修羅』試論」、「風野又三郎の『大循環』、ジェット気流予見の謎」、「賢治の二つの曼陀羅『永訣の朝』と『雨ニモマケズ』、そして『銀河鉄道の夜』に関する考察」、「宮沢賢治と保阪嘉内の『訣別』をめぐって」、「『稲作挿話』に関する土壌肥料科学的考察」という、いずれも重厚な7篇でした。
中でも、白木健一氏による「風野又三郎」に出てくる「ジェット気流」という新知見をどうして賢治が世界的な公式発表の前に童話にできたのかという考察、大明敦氏による賢治と嘉内の「訣別」とされてきた出来事の見直しの提言、田知本正夫氏による農学の専門家からの「稲作挿話」の解釈と、氏自身の壮大な未来の構想のご紹介が、私にとっては興味深かったです。
ただ、「発表会」を聴いていて私が勿体なく思ったのは、用意されたたくさんの資料のうち半分ほど進んだところで時間切れとなってしまい、せっかくの研究発表がやや尻切れトンボ的になってしまうケースが、いくつか見られたことです。このような研究発表をする際に、事前に時間を計りながら「予行演習」をしてから来られないのか、ちょっと不思議に感じました。
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さて、発表会が終わってイーハトーブ館から外に出てみると、残念ながら小雨が降り出していました。じつは今日の午後は、東和地区にある丹内山神社に行ってみようと思っていたのです。
バス路線は(かの岩手県交通も含めて)、自分で調べた範囲ではわからなかったので、一昨日に駅前の「花巻観光協会」で、丹内山神社へのアクセスを質問してみました。そうするとやはりバスはなく、釜石線の土沢あたりからタクシーに乗るしかないのだそうです。さすがに、「その地方の有力者は?」ということまでは尋ねませんでしたが…。
というわけで、昼食後に新花巻駅から釜石線、土沢駅で降りてタクシーに乗ると、あとは15分ほどで鬱蒼と薄暗い神社に着きました。
ここは、高橋克彦著の小説『火怨』では、重要な宗教的拠点と位置づけられている場所で、実際に中央勢力の支配が及ぶ以前から、何らかの聖地として崇敬されていた可能性が示唆されている場所です。坂上田村麻呂による「蝦夷」征服後は、例によって田村麻呂伝説と関連づけられていきますが、いずれにせよここは岩手の中でも、かなり神秘的なスポットではあります。
まだ連休とは言え、小雨降る森の奥には、人っ子一人いませんでした。広大な神域には多くの社殿が散在し、たしかに周囲の鄙びた雰囲気からすると異様なほど大規模な神社です。ただ、「十一面観音」も祀られていることからわかるように、ここは元来は神仏習合の信仰の場所であったようです。
私が今日ここへ来てみた目的は、この神社の参道にある「二の鳥居」のたもとに、賢治の「祭日〔一〕」の詩碑があるからでした(下写真)。作品冒頭に出てくる「谷権現」とは、この丹内山神社のことだったんですね。「権現」という言葉にも、神仏習合が現れているようです。
で、ホテルに帰って、昨日の分と今日の分のブログをとりあえずここまで書いたところ、今は午後8時です。
白木健一
風野又三郎とジェット気流について講演した者です。
興味を持ってくださって有難うございました。
講演時間20分を5分はみ出したのは恥ずかしいですが、
その後に別の場所で90分かけて同じ内容を話しました。
しかし正確には伝わらず、よほど整理して表現しないと
いけないと思い知らされました。
ましてや25分ではなおさら何だか判らなかったと思いま
す。
宮沢賢治さんの驚きの洞察力を強調すべきでした。
hamagaki
白木健一さま、お久しぶりです。2006年の研究発表会ではお世話になりました。
今回の白木さまの発表は、たしかにすごく濃密な内容で、普通に講演されたらそれこそ90分を要するものでしょうね。それを、25分で発表されたのですから、まことに鮮やかなお手並みと感じました。
ご発表の中で、私が最もスリリングに感じたのは、「ジェット気流」の学問的な公式の発表よりも先んじて、いかにして賢治がそのような世界的新発見に関する知識を得たのかという点の、検証プロセスでした。
水沢緯度観測所の先駆的研究データなど、時代をはるかにさかのぼって貴重な論証をなされた点に、何よりも今回の白木さまのご研究の意義を感じました。
すでに2006年にご指摘いただいていたとおり、「宮沢賢治は先端科学技術情報の入手について、驚異的に鋭敏なセンスがあった」ということですね。
今後とも、よろしくお願い申し上げます。