今日も蒸し暑く湿度は上昇したのに、雨は落ちない一日でした。梅雨にもかかわらず降水が少なく、これから水不足が気になる夏です。
来月早々には、「四国の水がめ」早明浦ダムも貯水率ゼロになってしまうとのことで、先が心配ですが、今日は季節柄ちょっと涼しい話題を。
賢治の詩で、いまの日本とは正反対に、大気は涼しく透明に澄みわたり、過冷却の水を満々とたたえた湖が描かれているのが、「阿耨達池幻想曲」(「口語詩稿」)です。
その後半だけ、引用してみます。
赤い花咲く苔の氈
もう薄明がぢき黄昏に入り交られる
その赤ぐろく濁った原の南のはてに
白くひかってゐるものは
阿耨達、四海に注ぐ四つの河の源の水
……水ではないぞ 曹達か何かの結晶だぞ
悦んでゐて欺されたとき悔むなよ……
まっ白な石英の砂
音なく湛えるほんたうの水
もうわたくしは阿耨達池の白い渚に立ってゐる
砂がきしきし鳴ってゐる
わたくしはその一つまみをとって
そらの微光にしらべてみやう
すきとほる複六方錐
人の世界の石英安山岩(デサイト)か
流紋岩(リパライト)から来たやうである
わたくしは水際に下りて
水にふるえる手をひたす
……こいつは過冷却の水だ
氷相当官なのだ……
いまわたくしのてのひらは
魚のやうに燐光を出し
波には赤い条がきらめく
この詩は「インドラの網」の関連作品とされていますが、「銀河鉄道の夜」における銀河の岸辺の情景をも連想させる描写ですね。「阿耨達池(あのくだっち)」は、「無熱池」「無熱悩池」とも訳され、チベット高原の伝説の湖ですが、現実の「マナサロワール湖」に比定されています。
このマナサロワール湖は、賢治が読んでいたスヴェン・ヘディン著『トランス・ヒマラヤ』では「最も聖なる湖」と、河口慧海著『西蔵旅行記』では「清浄霊妙の湖」と記された、ヒンドゥー教や仏教の聖なる巡礼地でもあります。
下の絵は、スヴェン・ヘディンの1906年~1908年の調査における100年前の「カイラス山とマナサロワール湖」の水彩画、さらにその下は、Google Map による現代の衛星写真です。2つならんだ湖の右の方の丸いのが「マナサロワール湖」、左が「ラカス・タル湖」で、「K」印のピンが付いているのが、「聖なる山」の「カイラス山」です。
コメント