昨夜は職場の同僚の人たちと奈良・東大寺の「お水取り」を見て、今日はあいにくの雨でしたが、五重塔も濡れてかすむ中、興福寺の「阿修羅像」を見てきました。
日本に数ある仏像の中でも、この像はとくに人気の高いものでしょうね。それにしてもなんという切実な表情をしていることかと思います。真正面から向かい合うと、眉間にはひときわ力が入り、はたして何かを強く訴えているのか、あるいは求めているのか、いずれにしても迫ってくる情動がひしひしと感じられます。
もとは仏教にとって「異教の神」であったことから、善と悪の両義性をかかえさせられ、六道の世界では「人」よりも下に置かれ、「怒り」や「攻撃性」の化身として皆から責められてきた‘asura’でした。
像の身長はだいたい1.5mくらい、まるで少年のような顔立ちと肢体が特徴的ですが、奈良・天平時代というはるか古に、作者はいったいどんな思いをこめてこのような姿を造形したのかと思います。
これが作られたとされる734年は、『万葉集』の時代絵巻では後期にさしかかったあたり、山部赤人や大伴旅人が活躍し、大伴家持はまだ十代だったはずですね。
かぐら川
この興福寺の阿修羅像、東京の国立博物館での展示はすごい人気(?)ですね。ところで、「賢治は阿修羅像を見たことがあるのか、見たことがあるとすれば、いつ・どこで(どこの)・どのような「阿修羅像」を見たのか」が気になって、netで検索してみました。そうしたらば、「宮澤賢治は25才の時、阿修羅像をみたようである」というフレーズをあるサイトで見つけました。25歳の時と言えば、父とともに奈良を訪れたときということになるのでしょうか。
そしてここでまたhamagakiさんへのお尋ねになるのですが、この父との関西旅行の具体的日時・行程ですが、――昨年10月13日のhamagakiさんのブログ添付資料「父子関西旅行に関する三氏の記述」の小倉・堀尾氏の記述によれば――奈良では「興福寺門前の宿」に泊まったと書かれていて、“当然?興福寺に参拝したことだろう、当然!ここの阿修羅像を見たことだろう・・・”となるのですが、実際どうだったのでしょうか。賢治は、このとき興福寺の阿修羅像を見たのでしょうか。
ところで、25歳の奈良訪問の折に、阿修羅像を見たかどうかはともかく、まちがいのない事実が一つありました。19歳の時点での修学旅行で賢治は間違いなく三十三間堂の阿修羅像は見ているのですよね。修学旅行の行程に三十三間堂は入っているのですから。何故かこのこと――修学旅行での阿修羅像との出逢い――は、今まであまり指摘されたことがないように思うのですが、どうなのでしょうか。
今になって、一週間前の三十三間堂の諸仏巡拝の折、どうして三十三間堂の阿修羅像をもっとよく見ておかなかったのか、この尊仏が興福寺のものと異なり、恐ろしい忿怒の像だと書かれているのを読むとなおさらのこと、くやまれてなりません。
・・・と、書きつつ愚考するのですが、“賢治の(阿)修羅”が問題にされるとき、仏典中の、あるいは教義中の「阿修羅」だけが問題にされて、阿修羅[像]との出逢いが語られることはほとんど無いように思われるのですが、《賢治が、日本を代表する、しかもイメージのかなり異なる二つの阿修羅像を実見していること》、このことの意味は重いと思われてなりません。賢治は、この二つの阿修羅像からそれぞれ強い衝撃を受けたのではないでしょうか。「賢治と(二つの)阿修羅像」などと言う、テーマがあっても良いのではないでしょうか。
賢治の阿修羅(修羅)理解のためにも、三十三間堂、興福寺の阿修羅像、ゆっくり見たいものだと思います。
いつものように、お尋ねやら感想やらごちゃまぜの書き込みになってしまい、すみません。
hamagaki
かぐら川 様、こんにちは。
ご指摘のとおり、確かに賢治は少なくとも三十三間堂の方の「阿修羅像」は、修学旅行の際に見ていた可能性が高いですね。私も意識していませんでしたし、これまでにも私の知るかぎりでは、このことに関する議論はあまりなかったのではないでしょうか。
興味深い視点だと思います。
ところで先日ご一緒に三十三間堂で拝観した「阿修羅像」は、何とかまだ私の記憶に残っています。たしかに逞しい「忿怒」の像で、興福寺のあの少年のように華奢な阿修羅とは、まったく違った印象でした。「唾し はぎしりゆききする/おれはひとりの修羅なのだ」という言葉の持つアグレッシヴな印象に近いのは、興福寺の像よりも三十三間堂の像であるという感じがします。
あと、賢治が父と奈良を訪れた時に、興福寺の「阿修羅像」を見たかどうか、これについては現在ちょっと私なりに調べてみているところです。「興福寺門前の宿に泊まった」となれば、見ていた可能性は当然想定されるのですが、実は見ていなかったのではないかと、最近私は考え始めました。
詳細は、もう少しわかってからまた書き込みます。