朝からよい天気で、東の窓のカーテンを開け放して寝ていたら、直射日光で足が熱くなりました。
今日は、県北の岩手町まで足をのばし、去年の7月にできたという
「丹藤川」の碑を見に行くことにしました。まず、9時すぎにイーハトーブ館を訪ねて、予備調査です。
「イーハトーブセンター会報第6号」には、奥田弘さんによる「奥丹藤川紀行」という一文が載っているので、これをコピーさせてもらいました。
賢治の「初期短篇綴」に分類される「丹藤川」という小品(晩年の推敲では「家長制度」と改題)は、
活字にしたら2ページほどの短いものですが、生々しい独特の雰囲気を持っていて、
詩とも童話とも異なった賢治の文学の別の一面を感じさせます。この作品のもとになった体験は、
盛岡高等農林学校時代に同級生の高橋秀松とともに、北上山地の地質調査をしていた時の出来事と推定されており、上記の奥田さんの論考は、
その具体的な場所を特定しようとした調査報告なのです。
しかし、結局この時の奥田さんの探索では、はっきりとした場所までは突きとめられず、「次回の踏査を待つことにした。」
として紀行文は結ばれていました。
昨年に「丹藤川」碑が建てられた場所は、岩手町の山奥の南山形という地区なのですが、昨日バス会社に電話で確認すると、
ここに至るバスは1日2往復で、その朝の便は6時28分に沼宮内駅前から出るとのこと、これでは花巻を朝一番に発っても無理ですから、
往路はバス利用をあきらめました。
イーハトーブ館をあとにすると、10時すぎに新花巻駅をから下り新幹線に乗り、盛岡で乗り継ぐ際にいったん改札を出て、
駅ビルの商店街でお弁当と「半島を出よ(下)」を買い、また北へ向かいました。車窓からは、
雪をかぶった岩手山も見事な姿を見せてくれています。
「いわて沼宮内」駅で降りると、タクシーで約30分細い山道を走り、南山形小学校の前に着きました。
丹藤川は、姫神山の東にある岩洞湖に発し、いったんは三陸海岸を目ざすかのように東へ流れようとしますが、
まだ海岸までにそびえる北上山地の山々に行く手をはばまれて、大きく反時計回りに姫神山の北を迂回し、結局は西の北上川に注ぎます。
南山形小学校は、丹藤川に面して建つ小さな学校で、その川べりに賢治の「丹藤川」
碑も建っていました。碑は、 自然の木で作った枠に白いアルミの板をはめ、そこに「丹藤川」 の全文が書かれているものです。
いくら「短篇」とは言え、 俳句でも短歌でも詩でもない散文作品の「全文」 が碑になっているというのは、 他の作家の文学碑でも、
これまであまり例がないのではないでしょうか。
碑の裏にある説明を読むと、上記の奥田弘さんの報告(1993)の時点では明らかになっていなかった作品の舞台について、 具体的に説明がなされていました。その場所は、この碑の立つ所からははるか上流で、岩洞湖よりもさらに川上と推定されていて、 賢治が泊まった家というのも目星がついているようです。そこからかなり離れた現在のこの場所に碑が建てられたのは、「小学校の前」 という教育的意義もあるのでしょうね。
碑を写真におさめると、脇の木のベンチに座って盛岡の駅弁を食べ、
丹藤川の流れに沿ってに少し歩いてみました。川の中では、 3人ほどの釣り人が、何か渓流釣りをしています。
それからまだバスの時刻まで3時間以上あったので、川べりでせせらぎを聴きながら、本を読んでいました。それにしても、今日は
「半島を出よ」上下巻(合わせると900ページ以上)と駅弁とお茶を持ち歩くことになったので、想定よりは重い荷物でした。
4時になりかなり陽も傾いてきた頃、荷物をまとめて「陸中大渡」というバス停からバスに乗り、45分ほどで沼宮内駅へ、 盛岡で在来線に乗り換えて、花巻駅に帰り着いたのは6時半ごろでした。
今日の夕食は、「白金豚」というのを食べに、若葉町のぎんどろ公園の近くにある「ポパイ」というレストランに行ってみました。
「白金豚(プラチナポーク)」というのは最近ちょくちょく耳にしますが、これは花巻の豚のブランド名で、その名前は賢治の
「フランドン農学校の豚」に由来しています。
一人の農学校の生徒が、飼育している豚を眺めつつ、「ずいぶん豚というものは、奇体なことになっている。水やスリッパや藁をたべて、
それをいちばん上等な、脂肪や肉にこしらえる。豚のからだはまあたとえば生きた一つの触媒だ。
白金と同じことなのだ。」と独りごちます。それを耳にした哀れな豚は、
白金の単位価格に自分の重量を乗じ、我が身がすべて白金でできていた場合の価値を算出して、つかのまの幸せにひたったという、あの箇所です。
今晩行ったお店は、その白金豚の登録商標を持っている会社の系列店ということで、
「白金豚の石垣しお焼き」と「白金豚のチョリソー」というのを注文しました。正直に言うと、そんなに「ふつうの豚肉と違う」
という感じではなかったのですが、素朴でいかにも「豚肉らしい」豚肉の味で、これはこれで美味しくいただきました。
ハンバーグなどのメニューも豊富で値段も安く、明るい雰囲気のお店です。
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