今日も快晴です。じつは今回の旅行では、花巻温泉でひとつ調べておきたいことがありました。
賢治の文語詩に、「林館開業」という不思議な作品があります。林の中にしゃれた館を開業して、きれいどころをそろえてお客を待っていたが、
訪れたのは蝶やばったなどの虫ばかりだった、という皮肉なお話です。いったい何のことを言っているのかわからないのですが、私は、
この作品のモデルはひょっとして花巻温泉に大正13年に開業した高級旅館「松雲閣」なのではないかと、
以前からなんとなく気になっていたのでした。
そこで松雲閣の昔の資料が見られないかと思い、昨夜から宿の人に頼んだりしてみた結果、花巻温泉の一角にある「修蔵館」
という古い蔵を特別に開けていただいて、中の収蔵品を見せてもらえることになりました。朝9時から暗い蔵のなかに入り、
ほとんど開けられたことのないような陳列ケースから、大正13年の建築請負関係の資料を出してもらって、しばらくあれこれと繰ってみました。
これはなかなかわくわくする体験ではあったのですが、字は読みにくく、傍らで じっと待っていただいている係の人にも気がねして、
結局今回はあらかじめ期待していたような記述を見つけ出すことはできずに、また資料を収めてもらいました。
ちょっと残念でしたが、花巻温泉に別れを告げてバスに乗りました。今日は水沢江刺から、
北上山地の阿原山と種山ヶ原にある石碑を目ざします。種山ヶ原の碑は、昨年夏の賢治学会の「エクスカーション」で来た時には、
時間がなくて見られなかったものです。
阿原山も種山も、準平原特有の平坦な山で、頂上あたりは広い高原になっています。阿原山の碑は、賢治が高等農林学校時代の地質調査中に、
剣舞を見て詠んだ歌でした。種山ヶ原の詩碑は、あの「牧歌」が刻まれた有名なものです。
種山ヶ原は、去年の夏に訪れた時より1ヶ月ほど遅いだけなのですが、すすきの穂もたくさん揺れて、 本格的な秋の景色になっていました。また、午後になっても天気はやはり雲一つない快晴で、これはこの地が「なかばは雲に鎖さるゝ」 と歌われていることからすれば、とても幸運なことだったのかもしれません。すすきの波のなかを、去年も登った種山の頂上まで 、 また行ってみました。残丘の岩も、去年と同じく突兀として鎮座していました。
夜は、「種山高原・星座の森」というところにあるコテージに泊まりました。「風の又三郎」の碑があるところです。 今日も日が落ちるとあたりはどんどん冷えてきて、部屋にはついにストーブを入れました。ここは、 毎年夏にスターウォッチングが開催されるところだけあって、さすがに降るほどに星が見えます。
はやし よしこ
なんとも言えない、かわいい「風の又三郎」の像があるんですね。
hamagaki
そうなんです。
ちょっとハイカラな格好で種山ヶ原の岩の上に立って、花巻の方を意味ありげにじっと見ながら、ふとした拍子にさっと飛び立つのではないかと思わせるような、そんな風の童子です。
夕陽の時刻が、いちばん美しく映えます。
はやし よしこ
すてきな、コメントありがとうございます。
先日、武田鉄矢さんが、「風の又三郎」の授業をテレビでなさってました。
そういう意味なんだと、わかっていませんでした。
でも、このコメントを読んで、あれって、武田さんの又三郎論のような気がしてきました。
yamada
こんにちは
種山ヶ原の「風の又三郎」くん、彫刻であることを忘れてしまうほど自然の中にとけこみ、賢治の世界を重ね合わせ種山ヶ原を異境へと誘う・・・私にとりましても思い出深い像です。
この像の作者である中村晋也氏の展覧会が、「祈りの造形ー釈迦十大弟子とミゼレーレ」というタイトルで三重県のパラミタミュージアムにて開催されています。魂の救いを真摯に求め続けてこられた作品を拝見し、また列品解説でご本人のお話を伺い、「風の又三郎」像がこの方から生まれたことを感慨深く思いました。
連作「ミゼレーレ(憐れみ給え)」のひとつには、グレゴリオ聖歌「幸いあれ、海の星」の一節がラテン語できざまれていましたが、ふと「双子の星」を思い出してしまいました。
「星座の森」のコテージのことを知りましたのも、貴サイトを拝読してのこと、旅の途中、種山ヶ原が初めて立つ地ではないように親しみが持てましたのも、イーハトーブの皆様のおかげと感謝いたしております。
hamagaki
yamada 様、書き込みをありがとうございました。
私も何度か、種山ヶ原の「風の又三郎像」には対面していましたが、これが中村晋也氏の作であったことは、今回のご教示で、初めて知りました。
ちょうど昨夜テレビをつけていると、中村晋也氏が今年の文化勲章受章者に決まったことが報じられ、「現代における具象彫刻の第一人者」として「深い精神性をたたえた作品」が紹介されていてましたので、今回のコメントをいただいたタイミングに、何とも不思議な巡り合わせを感じました。
ちょっとネットで検索して「ミゼレーレ」の一部の姿を垣間見ましたが、感動しました。近いうちに、奈良の薬師寺に行って、「釈迦十代弟子像」を拝観したい気持ちを禁じえません。
また、グレゴリオ聖歌に「海の星」が出てくるというのも、面白いですね。
このたびは、貴重なお話をありがとうございました。今後ともよろしくお願い申し上げます。
雲
最近、虫が、我が家に出ます。
蛾、なめくじ、ゴキブリ。
「無視するのは止めて、と、言ってたら、虫がついてくる。」と、弟に、話していたところです。
賢治は、すごい孤独に、陥った時、ひとりそっと助けてくれるという感じを受けます。
賢治好きの方が、仲間に入れてくれるわけでもない時でも、賢治自身は、そうではないというのが、なんか、すごいなと、近頃、思います。