2001年賢治祭の旅(3)

 今日も快晴です。じつは今回の旅行では、花巻温泉でひとつ調べておきたいことがありました。
 賢治の文語詩に、「林館開業」という不思議な作品があります。林の中にしゃれた館を開業して、きれいどころをそろえてお客を待っていたが、 訪れたのは蝶やばったなどの虫ばかりだった、という皮肉なお話です。いったい何のことを言っているのかわからないのですが、私は、 この作品のモデルはひょっとして花巻温泉に大正13年に開業した高級旅館「松雲閣」なのではないかと、 以前からなんとなく気になっていたのでした。
 そこで松雲閣の昔の資料が見られないかと思い、昨夜から宿の人に頼んだりしてみた結果、花巻温泉の一角にある「修蔵館」 という古い蔵を特別に開けていただいて、中の収蔵品を見せてもらえることになりました。朝9時から暗い蔵のなかに入り、 ほとんど開けられたことのないような陳列ケースから、大正13年の建築請負関係の資料を出してもらって、しばらくあれこれと繰ってみました。 これはなかなかわくわくする体験ではあったのですが、字は読みにくく、傍らで じっと待っていただいている係の人にも気がねして、 結局今回はあらかじめ期待していたような記述を見つけ出すことはできずに、また資料を収めてもらいました。

 ちょっと残念でしたが、花巻温泉に別れを告げてバスに乗りました。今日は水沢江刺から、 北上山地の阿原山と種山ヶ原にある石碑を目ざします。種山ヶ原の碑は、昨年夏の賢治学会の「エクスカーション」で来た時には、 時間がなくて見られなかったものです。
 阿原山も種山も、準平原特有の平坦な山で、頂上あたりは広い高原になっています。阿原山の碑は、賢治が高等農林学校時代の地質調査中に、 剣舞を見て詠んだ歌でした。種山ヶ原の詩碑は、あの「牧歌」が刻まれた有名なものです。

 種山ヶ原は、去年の夏に訪れた時より1ヶ月ほど遅いだけなのですが、すすきの穂もたくさん揺れて、 本格的な秋の景色になっていました。また、午後になっても天気はやはり雲一つない快晴で、これはこの地が「なかばは雲に鎖さるゝ」 と歌われていることからすれば、とても幸運なことだったのかもしれません。すすきの波のなかを、去年も登った種山の頂上まで 、 また行ってみました。残丘の岩も、去年と同じく突兀として鎮座していました。

 夜は、「種山高原・星座の森」というところにあるコテージに泊まりました。「風の又三郎」の碑があるところです。 今日も日が落ちるとあたりはどんどん冷えてきて、部屋にはついにストーブを入れました。ここは、 毎年夏にスターウォッチングが開催されるところだけあって、さすがに降るほどに星が見えます。