「くらかけの雪」詩碑
1.テキスト
くらかけの雪
たよりになるのは
くらかけつづきの雪ばかり
野はらもはやしも
ぽしゃぽしゃしたり黝(くす)んだりして
すこしもあてにならないので
ほんたうにそんな酵母(かうぼ)のふうの
朧(おぼ)ろなふぶきですけれども
ほのかなのぞみを送るのは
くらかけ山の雪ばかり
(ひとつの古風(こふう)な信仰です)
― 誌集 春と修羅 より ―
2.出典
「くらかけの雪(初版本)」(『春と修羅』)
3.建立/除幕日
1993年(平成5年)6月 建立
4.所在地
岩手県滝沢市鵜飼安達 相之沢キャンプ場駐車場
5.碑について
『春と修羅 〔第一集〕』の巻頭に、1922年1月6日の日付けをもって掲げられている二つの作品のうちの、一つです。(もう一つは「屈折率」で、雫石に詩碑があります。)
詩で描かれている鞍掛山は、小岩井農場の北側、岩手山の手前になだらかな姿を見せている山です。
この日、賢治は雪の中を一人で小岩井農場へ行ったようで、同じ年の5月の作品「小岩井農場 パート一」においては、「冬にきたときとはまるでべつだ/みんなすつかり変つてゐる…」と回想 しています。ほんとうに、「小岩井農場」を書いた時のような明るさとは違って、この冬の日の賢治は悲壮感をたたえ、心細げです。
そしてこの「くらかけの雪」は、その心細さや気弱さを素直にうつして、祈りのような静謐さと憧憬をたたえた作品です。
詩碑は、岩手山の南の裾野、鞍掛山の登山口にあたる駐車場に建てられています。 碑の後ろに見える木々は、そのまま鞍掛山にもつづいている森です。周辺はキャンプ場として整備され、私が訪ねた日もたくさんのテントが張られていました。
北にはまぢかに鞍掛山、すぐ東には牧場が広がり、ほんとうに素晴らしい場所です。
よく見ると石碑の形が、右上がりの鞍のような、鞍掛山をかたどったものになっているのがわかります。
少し離れた所から、鞍掛山と岩手山を望む (2001.8.12)