「こゝろ」詩碑

1.テキスト

こゝろ

光にぬるみ
しづかに析ける
そのことそれが巌のこころ

気流にゆらぎ曇ってとざす
それみずからが樹のこゝろ

2.出典

こゝろ(下書稿(三)手入れ)」(『〔口語詩稿〕』)より

4.所在地

花巻市高松第26地割 宮沢賢治童話村

5.碑について

 胡四王山の「宮沢賢治童話村」の広場の一角に、この詩碑は立っています。樹木のようですが、本物の木ではなくて木の形をしたオブジェです。
 詩は上記のテキストのあと、「一本の樹は一本の樹/規矩(のり)ない巌はたゞその巌」とつづいて終わります。
 静かな、諦念のような雰囲気が漂う作品です。

 樹木の「心」を論ずるだけならまだしも、岩石のような無生物の心まで感じているところが、まさに宮澤賢治的なのでしょう。
 その感性・表現の特徴について考えてみると、これは「擬人化」というのとも、またちょっと違うように思います。

 たとえばこれと似た観想は、「五二 嬰児(定稿)」(『春と修羅 第二集』)のなかにも出てきます。すなわち、「雲なら風に消されたり/そのときどきにひかったり/たゞそのことが雲のこころといふものなのだ……」という一節です。
 そしてこれには、「そしてひとでもおんなじこと」という一行がつづきます。

 つまり賢治は、通常の「擬人化」のように人間以外の存在を人間に擬しているのではなく、それとはまったく逆に、「雲」や「巖」や「樹」の存在様式から、「(ひとの)こころ」というものをとらえようとしているように思えるのです。