「雲の信号」詩碑
1.テキスト
雲の信号
宮澤賢治
あゝいゝな、せいせいするな
風が吹くし
農具はぴかぴか光つてゐるし
山はぼんやり
岩頸だつて岩鐘だつて
みんな時間のないころのゆめをみてゐるのだ
そのとき雲の信号は
もう青白い春の
禁慾のそら高く掲げられてゐた
山はぼんやり
きつと四本杉には
今夜は雁もおりてくる
四本杉ゆかりの地
2.出典
「雲の信号」(『春と修羅 〔第一集〕』)
3.建立/除幕日
1996年(平成8年)4月23日 建立
4.所在地
花巻市若葉町 市立花巻中学校西門
5.碑について
碑に「四本杉ゆかりの地」とあるのは、この花巻中学校の北側のあたりに、むかしは樹齢三百年を越える四本の杉がそびえていたということに由来します。落雷などのために1977年に伐採されたとのことで、残念ながらいまは存在しません(下写真参照)。
この「雲の信号」という作品に出てくる「雁」については、以前にこの欄に書いていた私の解釈をご覧いただいた方からコメントをいただき、私なりにいろいろと考えてみました。重要な事実として、渡り鳥である雁は、秋に日本に来て、春(4月上旬)に北へと帰っていくので、この作品に記された日付「1922年5月10日」には、雁はもう日本にはおらず、「きつと四本杉には/今夜は雁も降りてくる」とあるのは、季節に合わないのです。
私としては、他の作品も考え合わせた上で、この「雁」とは実際の鳥のことではなくて、「すばる(プレアデス星団)」に対する賢治独自の隠喩ではないかと考え、その根拠を「「雲の信号」と雁(つづき)」という記事に書きましたので、ご覧いただければ幸いです。
5月10日に、賢治が自宅の2階から「四本杉」を眺めると、午後7時すぎにちょうどその「四本杉」の方向に、「すばる」が沈んでいくのです。