暮れも押し詰まってきましたが、今回はまた鈴木輝昭氏による合唱曲「イーハトーヴ組曲」の第4曲「十力の金剛石」の演奏を、作り直してみました。
童声(女声)合唱とピアノのための「十力の金剛石」(鈴木輝昭作曲)
(蜂雀の歌)
ポッシャリ、ポッシャリ、ツイツイ、トン。
はやしのなかにふる霧は、
ポッシャリポッシャリ、ツイツイトン。
はやしのなかにふる霧は、
くぬぎのくろい実、
ポッシャリ、ポッシャリ、ツイツイツイ。
はやしのなかにふるきりの、
つぶはだんだん大きくなり、
いまはしづくがポタリ。
ポッシャン、ポッシャン、ツイ、ツイ、ツイ。
はやしのなかにふるきりは、
いまはこあめにかぁはるぞ、
木はぁみんな、
ポッシャン、ポッシャン、ポッシャン、シャン。
(うめばちさうの歌)
きらめきのゆきき
ひかりのめぐり
にじはゆらぎ
かなし。
青ぞらはふるひ
ひかりはくだけ
風のきしり
陽は織れど
かなし。
(野ばらの木の歌)
にじはなみだち
きらめきは織る
ひかりのをかの
このさびしさ。
こほりのそこの
めくらのさかな
ひかりのをかの
このさびしさ。
たそがれぐもの
さすらひの鳥
ひかりのをかの
このさびしさ。
曲では、霧のしずくを表す「ポッシャリ、ポッシャリ、ツイツイ、トン」などの賢治独特の擬態語が各声部で歌い交わされ、これにアルペジオのようなピアノの音が絡んでくるのですが、この音列が面白いのです。
「十力の金剛石」第5~6小節
上の画像のように、ピアノの開始から2小節の間に出てくる15個の音は、中間の3個を除くと、オクターブ内の12の全ての音を順に網羅する形になっており、十二音技法で用いられる音列に準ずるものとなっています。また音の配列は、F-C-G-D-As-Es-B…というように、完全五度または減五度を積み重ねる形になっていて、独特の無機的で硬質な響きをかもし出します。
この音列は曲中で何度も繰り返され、その響きはまるで童話における「宝石の雨」―― ダイアモンド、トパァス、サファイヤが、霰のようにカチンカチンと降りそそぐ―― を象徴するかのようです。
そしてこの曲で何よりも魅力的なのは、「にじはなみだち……」からの部分の美しい旋律ですね。「こほりのそこの めくらのさかな」「たそがれぐもの さすらひの鳥」などの賢治の詩的イメージが、香り立ちます。
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