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吉本隆明『日本近代文学の名作』

 大阪へ行く電車の中で、吉本隆明著『日本近代文学の名作』という本を読みました。

 日本近代文学の名作 (新潮文庫 よ 20-3)  日本近代文学の名作 (新潮文庫 よ 20-3)
 吉本 隆明

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 これは新刊ではなくて、文庫版が最近になって出たのですが、薄くてすぐ読めそうですし、どこへでも手軽に持って行けます。ただ実は、この本で吉本隆明氏自身の「書き下ろし」の文章はごく一部で、大半は作者の「語り」を活字に起こしているのです。吉本氏独特の文体を味わうことはできないのですが、結果的にとてもわかりやすく読みやすい本になっています。

 文章は平易ながら、どの作家についても、著者独自のキラリと光る鋭い視点が少なくとも一つは入っていて、読んでいると自分の作家眼や読書眼まで深まったような気持ちにさせてくれるのが、この本の凄さです。
 内容は、夏目漱石『こころ』に始まって、高村光太郎『道程』、森鴎外『高瀬舟』・・・と続き、日本の明治以降の「名作」24篇が、ずらりと並んでいます。宮沢賢治『銀河鉄道の夜』も、入っています。吉本氏の賢治評についてについて、ここではあえて触れませんが、ご一読をお勧めします。
 夏目漱石と森鴎外はどこが「超一流」なのか、一方で二人の対照的な点はどこか・・・。あるいは、私はこれまで川端康成はちょっと苦手だったのですが、たんに日本的な美や情緒が描かれていることよりも、どこに川端文学の独自性があったのか・・・云々。
 これは、420円で買える、幅広く、奥の深い世界です。


 ところで、中原中也『在りし日の歌』を論じている章に、次のような一節がありました。

 詩の往還ということを考えれば、中也の詩は、「還り道の詩」だと言うこともできる。難解な言葉を使ってひたすらに新しい言語表現や言語実験をめざす「往路の詩」ではなく、徹底して突き進んだ地点から読者の意識の方へ、生活の現場の方へと戻ってくる「還り道の詩」だと言える。

 これもなかなか面白い見方ですが、この分類で行けば宮澤賢治の詩は、『春と修羅』と「春と修羅 第二集」は、きっと「往路の詩」で、「春と修羅 第三集」では「還り道の詩」に入り、晩年の「文語詩」も、総体としてやはり「還り道の詩」ということになるのだろうか、などと思ったりしました。