京都市伏見区の龍谷大学深草キャンパス内「至心館」で開かれている、「宮沢賢治・民家の世界 ―いのちへの慈愛―」という展覧会を、今日の午後にのぞいてきました。
「宮沢賢治・民家の世界展」というタイトルだけからは、どんな展示内容なのか想像がつきにくいと思います。「賢治生家」などが出てくるのか、などと思いますがそうではありません。
内山正一さんという国際的なミニチュア造形作家がおられて、これまでに日本古来の萱葺きの民家や、歴史的建造物などを精巧なミニチュアで制作しておられるのですが、その内山さんが、同様の手法で賢治の作品世界をミニチュア模型で再現した作品が、今回の展示内容の主要部分なのです。これに加えて、賢治自筆原稿や絵画の精巧複製や、バタグルミの化石、イギリス海岸などの写真、賢治の生涯や活動の解説パネルなども組み合わされ、宮澤賢治という人間像も浮かび上がるようになっています。さらに内山さんの作品として、賢治と直接関係ない分野のものも、いろいろ展示されています。
賢治作品のミニチュア模型としては、「注文の多い料理店」シリーズ(左写真)、「セロ弾きのゴーシュ」シリーズ、「水仙月の四日」、「雪渡り」、「なめとこ山の熊」、「土神ときつね」、「貝の火」、「銀河鉄道の夜」、「風の又三郎」、「カイロ団長」、「洞熊学校を卒業した三人」など、多彩な作品が一堂に会していました。「なめとこ山の熊」では、小十郎の遺骸のまわりに熊たちが輪になって集まっている場面、「セロ弾きのゴーシュ」ではゴーシュの住む水車小屋の味のある風情が印象的でした。
どの作品も、独特のユーモアのセンスが感じられるとともに、建物の壁や屋根に至るまで、素材の質感にもこだわった精巧な造りが見事です。
内山さんは、「民俗の世界をつきつめていくと、最終的には柳田国男と宮沢賢治という2人の人に行き着く」と書いておられ、賢治の作品世界に対する強い思い入れも感じられます。
賢治作品以外では、日本各地のいろいろな民家や商家、芝居小屋、洋館なども展示されており、「南部曲がり家」(右写真)も3つほどありました。これは、人家と馬小屋がL字型になってつながった形の、岩手県独特の農家の造りです。賢治の「〔どろの木の下から〕」(「春と修羅 第二集」)で、「蒼鉛いろの影の中に/鍵なりをした巨きな家が一軒黒く建ってゐる/鈴は睡った馬の胸に吊され/呼吸につれてふるえるのだ・・・」と出てくる「鍵なりをした巨きな家」というのが、それにあたります。
内山さんの作品では、農家の家族7人とともに、馬も一緒に記念写真のように登場し、人間と馬が一つ屋根の下で暮らすという岩手の農家の人々の「心」も感じられるようでした。
展覧会は入場無料の上に、なんと60ページもあるカラー版の「図録」まで、無料でもらえます(上の2つの写真は図録から転載させていただきました)。
期間は、2月10日までですからあと約1週間、時間は午前10時から午後4時まで、土日祝日は休館ですのでご注意ください。
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