小川達雄著『隣に居た天才―盛岡中学生宮沢賢治』(河出書房新社)という本を読みました。小川さんは、昨年にやはり『盛岡中学生 宮沢賢治』という本を出版して、「宮沢賢治賞奨励賞」を受賞されました。これは、またその続編といった趣です。
前著と同様、盛岡中学校に在学中を中心としたの賢治の日々が詳細にたどられますが、今回は前回以上に当時の短歌に密着しつつ、それを「『文語詩篇』ノート」「「東京」ノート」と丁寧に照合しながら、著者独自の関係者の取材もあわせて、興味深い指摘がなされていきます。
第一章から第九章まで、それぞれの中心的な題材として取り上げられている短歌は、下記の通りです。
第一章 「藍いろに点などうちし鉛筆を銀茂よわれはなどほしからん」
第二章 「公園の円き岩べに蛭石をわれらひろへばぼんやりぬくし」
第三章 「のろぎ山のろぎをとりに行かずやとまたもその子にさそはれにけり」
第四章 「鬼越の山の麓の谷川に瑪瑙のかけらひろひ来りぬ」
第五章 「冬となりて梢みな黝む丘の辺に夕陽をあびて白き家建てり」
第六章 「家三むね波だちどよむかれ蘆のなかにひそみぬうす陽のはざま」
第七章 「志和の城の麦熟すらし/その黄いろ/きみ居るそらの/こなたに明し」
第八章 「いなびかりまたむらさきにひらめけばわが白百合は思ひきり咲けり」
第九章 「そのおきな/をとりをそなへ/草明き/北上ぎしにひとりすわれり」
そして第十章は、「法華経開眼」と題して、高等農林入学前後の法華経との出会いを描いています。
上に取り上げられた歌の多くは、中学生の日常の何気ない出来事を描いたようで、これまで文学的にはあまり注目されなかったものと思いますが、小川氏はこれらの歌と様々な材料をもとに、賢治の身辺の様子を活き活きと再現して見せてくれます。この本を読んでいると、小川氏が岩手公園に見つけた「円き岩」、のろぎ(滑石)を採取した南昌山、瑪瑙を拾った鬼越山など、賢治や友人たちが行動していた場所へ、いっさんに飛んで行きたくなってしまいます。
なかでも、いちばん憧れをかきたてるのは、賢治が初恋をした看護婦のふるさととされている、日詰町とその城山(第七章)ですね。
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