「イーハトーボの劇列車」公演

「イーハトーボの劇列車」公演チラシ 今日は大津市で、「O2劇場」という市民劇団による「イーハトーボの劇列車」 の公演を見てきました。

 賢治を愛する井上ひさし氏脚本によるこの劇は、宮澤賢治の生涯のうち、東京行き夜行列車内の情景と、東京におけるエピソードだけから構成されています。
 すなわち、
1) 1918年12月26日、トシが東京で倒れたと連絡を受けての上京 → 東大分院小石川病院 (永楽病院)の内科二等病室
2) 1921年1月23日、家出して東京へ向かう車内 → 本郷の下宿(稲垣かつ方) の一室
3) 1926年12月2日、セロやエスペラントを学ぶための上京 → 下宿旅館「上州屋」 の一室
4) 1931年9月20日、東北砕石工場技師としての東京出張 → 旅館「八幡館」 二階の六畳間
という四景です。

 人生の98%ほどを岩手県内ですごした賢治の生涯から、わざわざ例外的・非日常的な時間ともいうべき上記の場面を切りとって、そこから「宮澤賢治」という人間像を見事に浮かび上がらせる井上ひさし氏の手並みは、ほんとうに鮮やかなものです。
 しかし思えば、賢治の生涯において「上京する」という場面は、何か彼の人生において重要なポイントとなった節目であり、また「列車の中の情景」という設定自体が、まさに彼の代表作「銀河鉄道の夜」を彷彿とさせるものです。
 そして、「銀河鉄道の夜」という作品における「切符」という一つの鍵を、たくさんの仕事をし残して亡くなった宮澤賢治の気持ちに掛けて、「思い残し切符」という小道具に昇華したラストのシーンには、心から感動しました。

 賢治の作品や伝記的エピソードに精通した井上氏ならではの細部の作りは、 賢治ファンにとってはかぎりない懐かしさを感じさせてくれるものでしたし、またこの脚本は、賢治を全く知らない人にも訴えかけるような、 普遍的な力も持っていると思いました。市民劇団の皆さんも、心揺さぶる熱演でした。