賢治学会春季セミナー(2)


 朝6時ごろ、花巻駅前のホテルから東のほうを望んだ雪景色です。中央の小さな山が、胡四王山です。

 なるべく早く朝食をすませると、まず胡四王神社へ行きました。まだ誰の足跡もついていない雪を踏んで、本殿に着きました。
  「神楽殿/のぼれば鳥のなきどよみ/いよよに君を/恋ひわたるかも」(歌稿〔B〕 179-180b)。この鳥は何かわかりませんが、 今朝はカラスが鳴きかわしていました。

 さて、9時半からは、今回のお目当てだったイーハトーブ館の「春季セミナー」です。
 まず、歌曲の演奏では、「星めぐりの歌」と「種山ヶ原」を、合唱とピアノ伴奏、尺八と琴、神楽(笛・太鼓・鉦) という異なった三つのヴァージョンで演奏するという試みがおこなわれました。なかでは、胡四王神楽による「星めぐりの歌」の演奏が、 とりわけ圧巻でした。いつか、これをMIDIにつくってみたいものです。

 その次には、「賢治詩朗読の新しい試み」と題して、「一六 五輪峠」の朗読がありました。これが、 すばらしかったです。
 ふつう、朗読というと完成されたテキストを単線的に読んでいくものですが、ここでは「五輪峠」の下書稿(一)第一形態の朗読のテープを流しながら、 賢治がその草稿の周囲にあとから書きつけた膨大な字句を、それに重ねて、ある時は呟くように、ある時は詠嘆するように、 その場で朗読していくということがおこなわれました。まさに、重層的でポリフォニックな賢治のテキストの世界が、現前するようでした。
 もともとこの作品は、認識および存在(と感じられているもの)の重層性というテーマを扱った作品であるだけに、 なおさらこのような試みにふさわしかったのかもしれません。また、そのスケッチ日付は「3月24日」で、 ちょうど今回の試みと同じ季節でしたし、作中のように今日は、雪まで降ってくれました。
 私はこれまでこの作品を自分で読んでいて、とても面白いとは思ってきましたが、これほど感動的なものと感じたのははじめてでした。

 このあと、マンガ家の ますむらひろし さんが、現在執筆中の「虔十公園林」を公開製作したり、ますむら さんと 天沢退二郎さんの対談がありました。これも、とても楽しかったです。
 半日だけの参加でしたが、来てよかったです。

 終了後は、帰りの飛行機までの時間に、また花巻周辺でいくつか石碑を写してきました。これは近いうちにアップしたいと思っています。