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青い槍の葉

1.歌曲について

 賢治は、『春と修羅』刊行よりも早い1923年8月に、国柱会の機関紙である「天業民報」の紙上に、「青い槍の葉(挿秧歌)」という作品を発表しています。「挿秧」とは「田植え」のことで、「青い槍の葉」とは、稲の苗の葉先が尖った様子を表しています。

 つねに農業のことを考えていた賢治にとって、中心作物である稲は、最大のテーマでした。実践活動では陸羽一三二号の普及に努め、肥料設計に邁進する一方で、創作活動においてもその作品中で「稲」の登場するものは、絶筆短歌に至るまで250余りを数えます。原 子朗 氏は賢治のことを、「稲の詩人」とまで呼んでいます。

 稲の苗の生命力を讃え、その成長を願うこの「田植え歌」には、そのような賢治の祈りがこめられているのだと思います。

 この曲の旋律は、『【新】校本全集』では「作曲者 未詳」ということになっていますが、どこか大正~昭和初期の歌謡曲を思わせるような雰囲気があります。
 ここでは、これを思い切って「チンドン屋」の編成にアレンジしてみました。

 賢治は生前、「農業を芸術にまで高める」ということを言ったり書いたりしていました。そのような考えに立てば、この曲も、演奏会の舞台であらたまって歌われるためのものではなく、田植えをする人々を直接に鼓舞し、稲に力を与えるために、野外の田んぼの畦道などで奏でられるための音楽だと言えるのではないでしょうか。
 そうだとすれば、日本の伝統的なストリート・ミュージシャンであるチンドン屋こそが、この曲の演奏者としてはふさわしいのではないか…、そんなことをふと思ったのです。彼らなら、どこの田んぼへでも出張して移動演奏できるはずです。

2.演奏

 というわけで伴奏の編成は、機動性も考慮して、クラリネット、アコーディオン、三味線、打楽器の四名としました。あながち曲想には合わなくもない響きだと思うのですが、いかがでしょうか。

3.歌詞

 (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲は来るくる南の地平
そらのエレキを寄せてくる
鳥はなく啼く青木のほづゑ
くもにやなぎのかくこどり

 (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲がちぎれて日ざしが降れば
黄金(キン)の幻燈 草の青
気圏日本のひるまの底の
泥にならべるくさの列

 (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲はくるくる日は銀の盤
エレキづくりのかはやなぎ
風が通ればさえ冴え鳴らし
馬もはねれば黒びかり

 (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲がきれたかまた日がそそぐ
土のスープと草の列
黒くおどりはひるまの燈籠(とうろ)
泥のコロイドその底に

 (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
りんと立て立て青い槍の葉
たれを刺さうの槍ぢやなし
ひかりの底でいちにち日がな
泥にならべるくさの列

 (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲がちぎれてまた夜があけて
そらは黄水晶(シトリン)ひでりあめ
風に霧ふくぶりきのやなぎ
くもにしらしらそのやなぎ

 (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
りんと立て立て青い槍の葉
そらはエレキのしろい網
かげとひかりの六月の底
気圏日本の青野原
 (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)

4.楽譜

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(楽譜は『新校本宮澤賢治全集』第6巻本文篇p.363より)