「牧歌」詩碑

1.テキスト

  牧  歌 

種山ヶ原の、雲の中で刈った草は、
どごさが置いだが、忘れだ 雨ぁふる、

種山ヶ原の、せ高の芒あざみ、
刈ってで置ぎわすれで雨ふる、雨ふる

種山ヶ原の 霧の中で刈った草さ
わすれ草も入ったが、忘れだ 雨ふる

種山ヶ原の置ぎわすれの草のたばは
どごがの長嶺で ぬれでる ぬれでる

種山ヶ原の 長嶺さ置いだ草は
雲に持ってがれで 無ぐなる無ぐなる

種山ヶ原の 長嶺の上の雲を
ぼっかげで見れば 無ぐなる無ぐなる

            賢  治

2.出典

歌曲「牧歌

3.建立/除幕日

1962年(昭和37年)7月15日 建立

4.所在地

岩手県奥州市江刺米里 種山高原 立石

5.碑について

 碑になっている「牧歌」という歌は、賢治が農学校教師時代に、生徒のために書き下ろした劇「種山ヶ原の夜」のなかで、木々の精霊が唄う歌です。この劇は、とくに劇的なストーリーというものはないのですが、夢と現実が交錯する幻想的な情景が繰り広げられ、夜の種山ヶ原のあやしい感じがただよいます。
 上の歌詞も、夢から醒めかけた半覚醒状態の思考を表すかのようです。表現にも方言が用いられ、独特の雰囲気をかもしだしています。この歌曲のメロディーについては、こちらをご参照ください。

 詩碑は、種山高原のキャンプ場などがあるあたりから、すこし南の方角の、通称「立石」という大きな岩がそびえている広場にあります。
 種山ヶ原をはじめ、北上山地のあちこちには、このようにゴロンとした岩が顔を出しています。
 昔はもっと高い山脈だった北上山地が、長い年月のうちに侵食されて現在のような「準平原」になっていく過程で、蛇紋岩のように硬い岩は、他の地質と比べて相対的に侵食を受けないために、 周囲の土壌とともに取り残されました。その結果、まわりから少し盛り上がった丘の中央に岩があるという、独特の地形ができていったのです。
 賢治が興味を持ち、さまざまな作品にも詠み込んだ、「残丘モナドノック」という地学現象です。

 人間によって銅版をはめこまれ、今は詩碑になっている上の岩も、そのような長年の風化・浸食に耐えてきた一つのようです。


種山高原 立石