「剣舞の赤ひたゝれ」歌碑

1.テキスト

劍舞の
赤ひゝたれは
きらめきて
うす月しめる
地にひるがへる
      賢 治

2.出典

歌稿〔B〕 596

3.建立/除幕日

1994年(平成6年)6月1日 建立/6月5日 除幕

4.所在地

岩手県奥州市江刺伊手字阿原山 阿原山牧場展望所

5.碑について

 阿原山は、 種山ヶ原から南西の方向にある標高782mの山です。このあたりの準平原と呼ばれる地形独特の、平たい形をしていて、頂上は高原のようになっています。

 その高原にある「阿原山牧場展望所」に、歌碑が建っています。
 碑になっている短歌は、1917年9月、高等農林学校三年の時に詠まれたものですが、この8月28日から9月8日にかけて、賢治は他の学生とともに江刺郡の地質調査に出かけていました。この旅の途中で、彼は原体村(当時)の剣舞に出会い、涙を流すほどの感銘を受けたのです。
 9月3日には、いくつかの短歌をつくって親友の保阪嘉内に葉書で送っていますが、そこにこの一首の原型も含まれています。
 さらにこの時の体験は、五年後に、あの名作「原体剣舞連」(『春と修羅 〔第一集〕』)としても結実しました。
 また、この地質調査旅行で賢治は種山ヶ原も訪ね、「みちのくの/種山ヶ原に燃ゆる火の/なかばは雲にとざされにけり」など、歌曲「種山ヶ原」の原型となる短歌も詠んでいます。
 賢治にとってこの旅は、後のさまざまな創作活動の源泉の一つとなる、重要な体験だったのだろうと思います。


阿原山よりの眺望 (2001.9.23)