「さいかち淵」碑

1.テキスト

・・・蝉が雨の降るやうに鳴いてゐる
        いつもの松林を通って・・・

[側面]  宮沢賢治先生の童話    「さいかち淵」ゆかりの地

2.出典

童話「さいかち淵」

3.建立/除幕日

1972年(昭和47年)11月3日 建立

4.所在地

花巻市石神町地内 石神開町記念碑 脇

5.碑について

 現在は豊沢川の流れからは少し離れたところにある花巻市石神町ですが、明治の初めごろまでのこのあたりは、しばしば豊沢川が氾濫して川筋が変わり、浸水することが多かったのだそうです。しかし、治水が進むとともに明治のなかばあたりからは徐々に町の人口は増えはじめ、とりわけ戦後1951年に雪印乳業の工場がここに建設されてからは、立派な道路も整備され、「町」として発展してきました。

 この石碑は、町としての本格的な発展から20周年を記念して、1972年に地元の有志によって建立されたものです。
 碑文には、1941年に公開された日活映画「風の又三郎」の野外ロケが、この近くの豊沢川で行われたことにちなんで、童話の中で子供たちが川遊びをするそのシーンの初期形である、「さいかち淵」の一節がとられました。

 現代の花巻市街の様子からは、この近くに「淵」があったとは想像もできませんが、賢治の時代には、実際にこの辺は子供たちの川遊びのメッカだったそうです。
 しかしそれにしても、こんな街なかの一角に、どこか別世界へも通ずるような深い「淵」が顔をのぞかせているというトポロジーは、まるで賢治の童話世界そのものの構造のようですね。


 この碑の場所から少し南へ行くと、豊沢川にかかる「道地橋」の欄干に、下写真のようなオブジェが付けられています。開いた本の形をした黒御影石には、上の碑のテキストを含む、一文全体が刻まれています。
 「子供たちの夏の一日」の香りが、立ちのぼってくるような賢治のテキストです。

     さいかち淵

 「ぼくらは、蝉が雨のやうに鳴いてゐるいつもの松林を通って、それから、祭のときの瓦斯のやうな匂のむっとする、ねむの河原を急いで抜けて、いつものさいかち淵に行った。」