第7回イーハトーブ・プロジェクトin京都

 東日本大震災の復興支援のためのチャリティイベントとして、これまで6回の「イーハトーブ・プロジェクトin京都」を開催してきました。
 そして今度、11月29日(日)に、「宮沢賢治の「悲嘆の仕事(グリーフ・ワーク)」」と題して、その第7回を行います。

第7回イーハトーブ・プロジェクトin京都
  宮沢賢治の「悲嘆の仕事(グリーフ・ワーク)」
    ――作品でたどる、妹の死とその後の苦悩

日時: 11月29日(日) 14時開演(13時30分開場)
場所: 京都府庁旧本館正庁
出演: 竹崎 利信 (かたり)
     浜垣 誠司 (解説)
参加費: 2000円 (経費以外は被災地に寄付します)

 下に、チラシの表面と裏面を掲げておきます。クリックすると、別窓で拡大表示されます。

「第7回イーハトーブ・プロジェクトin京都」チラシ表

「第7回イーハトーブ・プロジェクトin京都」チラシ裏

 今回取り上げるのは、賢治がトシの死の前後に書いた様々な作品です。「永訣の朝」をはじめとする「無声慟哭」作品群や、翌年夏の「オホーツク挽歌」作品群は、その比類ない美しさと痛切さのために、これまで多くの人が朗読し、論じてきました。
 今度の公演では、「第3回イーハトーブ・プロジェクトin京都」にも出演いただいて感動の涙を誘った竹崎利信さんに、これらの作品の「かたり」を演じていただき、その合間に私が、「グリーフ・ワーク」という視点から、解説をしてみたいと思います。
 「グリーフ・ワーク」ということについては、チラシ裏の説明から下に引用します。

「グリーフ・ワーク」という道程
 人は、かけがえのない存在を失った時、否応なく「悲嘆」の中に投げ込まれます。あの人がいなければ、自分はもう生きていてもしょうがない。この苦しみは、永遠に続くだろう。こんな苦痛と孤独を抱えて生きるくらいなら、死んだ方がましだ…。人はしばしば、大切な人との死別の後に、このような思いにとらわれます。そして実際その人の生活は、ある種の闇に閉ざされてしまったようにも見えます。
 その闇の中で、人は苦しみもがいたり、怒りをぶつけたり、絶望したりもするでしょう。死者のことばかりを思い、はてしない自問自答を繰り返すこともあるでしょう。それでもしかし、一定の時間が経つうちに、そのような苦しみを続ける人の心にも、何かの変化が現れてくることがあります。悲しみは消えなくても、また自分は生きていこうと思うかもしれません。その人の死を、何か自分なりに意味づけていくかもしれません。亡くなった人が、自分に力を与えてくれているように感じるかもしれません。
 このように、人が死別の苦難を受けとめ昇華する過程で、その人の心が自ずと行っていく営みのことを、「グリーフ・ワーク(悲嘆の作業)」と呼びます。その形は様々ですが、多くの人は、このプロセスを通り抜けることによって、悲しみの中からまた歩き出すのです。

宮沢賢治と「グリーフ・ワーク」
 思えば、宮沢賢治という人も、若くして深刻な死別を体験した人でした。彼は26歳の時に、最愛の妹トシを、結核で亡くしたのです。人並み外れた感受性の持ち主だった賢治にとって、これは耐えがたい出来事でした。打ちのめされ、悲嘆に暮れ、悩み苦しむ日々は延々と続き、翌年には妹に会いたい一心で、樺太まで一人で行ってしまったほどです。一時は精神の平衡さえ崩しかねなかった賢治ですが、この苦しみの過程において、有名な「永訣の朝」をはじめ、日本近代文学で比類のない挽歌群が生み出されました。
 そしてそのようなプロセスの後、彼はいつしか悲しみを越えて、心の安定を取り戻していったのです。すなわち、この間に書かれた数々の作品は、宮沢賢治という人が図らずも行った、稀有な「グリーフ・ワーク」の記録でもあるのです。
 当日は、大正11年11月27日に亡くなったトシの命日の、2日後にあたります。賢治がトシを謳った作品を、竹崎利信さんの「かたり」で聴きながら、彼がいかにして深い「喪失」を乗り越えていったのか、その心の軌跡を辿ってみたいと思います。

 私は、ふだんの仕事は精神科の医者をやっているのですが、その中では上のように大切な人を亡くして、絶望のどん底にある人の相談に乗ることもあります。
 今回私がお話しようと思っていることは、この間ブログで折に触れて書いてきたことも元になるでしょうが、多少とも精神科医という立場から、賢治の「この悲しみに時期」について、あらためて考えてみたいと思います。

 いつものように、私たちの催しの趣旨に賛同してチラシの絵を描いて下さったのは、埼玉県在住の画家・ガハクさんです。今回も素晴らしい絵をお寄せ下さったガハクさんに、あらためてこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

 会場の定員は、90名とさほど多くありません。
 ご来場ご希望の方は、075-256-3759 (アートステージ567: 12時~18時, 月曜休)に、お電話でご予約をお願いいたします。

 当日11月29日は、トシの命日の二日後にあたります。この時期に、ご一緒にトシと賢治に、そしてまた震災によって大切な人や生活を失われた方々に、今一度思いを致しましょう。

 皆様のご来場を、心よりお待ち申し上げています。