2003年賢治祭の記録(6)

 「2003年賢治祭の記録」に、 上根子神楽の子供たちによる「鳥舞」「権現舞」を追加しました。
 「鳥舞」ときくと、「春と修羅 第二集」の「九三 〔ふたりおんなじさういふ奇体な扮装で〕 」に出てくる「鳥踊(フォーゲルタンツ)」を連想してしまいますが、その動作も、二人が向かいあってまわったり、 胸に手を当てたりと、何となく似ているような感じです。こっちの「鳥舞」は、早池峰系の神楽ではかならず最初に舞われるもので、イザナギ・ イザナミの二神を表わしているのだそうです。優雅な所作が印象的でした。
 これに対して「権現舞」は、一転して雄壮な動きで、神楽の最後の締めに舞われるものです。獅子がキーキー鳴いたり、白布・扇子・ 脇差しを飲み込んで、(浄めて)また出すというのが面白くて、会場も沸いていました。
 それにしてもこの子供神楽も、後に出てくる高校生による鹿踊りも、またその昔に賢治が見て感動したという原体村の稚児剣舞も、 舞手が大人でなくて少年であることによって、独特の雰囲気が醸し出されています。
 もとより子供は大人よりも超自然的なものに近くあるということで、全国各地のお祭りでも、「お稚児さん」が神のヨリマシ(依憑) としての役目を務めることがよくあります。その中で、子供たちによる神聖な踊りである「稚児舞い」という形態は、 とくに北陸から東北地方にかけて、特徴的に多く残されているということです。そう言われてみると関西地方のお祭りでは、「子供の舞い」というのは、 あまり見かけません。
 ちょうどこの賢治祭の日の朝には、宮沢賢治記念館で胡四王神楽が奉納されたので、私も見に行っていました。右写真はその時の「鳥舞」 ですが、やはりここでも子供が舞いはじめると、ふと何か人間ではない妖精の踊りように思える瞬間があるのでした。
 思えばこの賢治祭というお祭りも、子供による合唱に始まって、子供の舞い、子供の朗読、子供の劇、子供の踊り、と続きます。 まさに東北の民俗伝統にしたがって、ヨリマシとしての子供の力にも与りながら、 詩碑前広場の一夜に賢治の魂を呼び寄せようとしているのかもしれません。