九三

     〔ふたりおんなじさういふ奇体な扮装で〕

                  一九二四、一〇、二六、

   

   ふたりおんなじさういふ奇体な扮装で

   はげしいかげらふの紐をほぐし

   しづかにならんで接骨樹藪をまはってくれば

   季節の風にさそはれて

   わざわざここの台地の上へ

   ステップ地方の鳥の踊(をどり)

   それををどりに来たのかと

   誰でもちょっとはかんがへさう

   けらがばさばさしてるのに

   瓶のかたちのもんぺをはいて

   めいめい鍬を二梃づつ

   その刃を平らにせなかにあて

   荷縄を胸に結ひますと

   その柄は二枚の巨きな羽

   かれ草もゆれ笹もゆれ

   こんがらかった遠くの桑のはたけでは

   けむりの青い Lento もながれ

   崖の上ではこどもの凧の尾もひかる

   そこをゆっくりまはるのは

   もうどうしても鳥踊(フォーゲルタンツ)

   大陸からの西風は

   雪の長嶺を越えてきて

   かげらふの紐をときどき消し

   翡翠いろした天頂では

   ひばりもじゅうじゅくじゅうじゅく鳴らす

   そこをしづしづめぐるのは

   どうもまことに鳥踊(フォーゲルタンツ)

   そこらでぴったりとまるのも

   やっぱりもって鳥踊り

   しばらく顔を見合せながら

   赤い手桶をはたけにおろし

   天使のやうに向きあって

   胸に手あてて立つといふ

   ビザンチンから近世まで

   大へん古いポーズです

   おやおや胸の縄をとく!

   おひとりうしろへまはって行って

   大じな羽をおろしてしまふ

   それからこちらが縄をとく

   そちらが羽をおろしてあげる

   けらをみがるにぬぎすてゝ

   まゝごとみたいに座ってしまひ

   髪をなでたり

   ぽろっぽろっとおはなしなんどはじめれば

   そこらあたりの茎ばっかしのキャベヂから

   たゞもういちめんラムネのやうに

   ごぼごぼと湧くかげらふばかり

   鳥の踊りももうおしまひ

 

 


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