梅津時比古『《セロ弾きのゴーシュ》の音楽論』

『≪セロ弾きのゴーシュ≫の音楽論』 梅津時比古著『《セロ弾きのゴーシュ》の音楽論』(東京書籍)という本を読みました。これは、音楽における「近代主義」というべきものを批判的に検討しようとする、一種の音楽論・演奏論の本なのですが、「セロ弾きのゴーシュ」を読み解き、この童話に賢治がこめたと思われる思想を取り出すことを通じて論を展開するという方法をとっているので、そのまま一つの新しい賢治論として読むこともできます。

 一時は熱心にセロを練習した賢治ですが、結局はあまり上達しなかったと言われています。しかしそれだからこそ、そういう立場から楽器や演奏や練習法についていろいろ思考した者として、彼の作品には、近代合理主義にひたされた20世紀以降の音楽状況に対するアンチテーゼが含まれているというのです。作品の分析を通して、この童話の巧みさや奥の深さも、あらためて実感させてくれました。

 気づいてみると今年もほぼ半分が終わりました。今年の上半期で、私が読んで面白かった賢治関係の書籍を三つ挙げるなら、上記と、田中末男著『宮澤賢治〈心象〉の現象学』(洋々社)、池澤夏樹著『言葉の流星群』(角川書店)です。