わらべの像

1.テキスト

 あんまり
川を
  にごすなよ

「風の又三郎」 宮沢賢治

2.出典

童話「風〔の〕又三郎」(九月七日)より

3.建立/除幕日

2006年(平成18年)9月25日 建立/除幕

4.所在地

花巻市高松 宮沢賢治童話村



5.像について

  あどけない子どもが中腰で、飛行機のように両腕を広げているこのブロンズ像は、盛岡市出身の彫刻家高橋枡旺(ますお)氏が、1990年代に作成されたものだそうです。
 このかわいい像を、「国際ソロプチミストアメリカ日本北リジョン花巻」という女性の奉仕団体が、その創立20周年を記念して、「宮沢賢治童話村」の中に生まれ変わらせました。

 像の除幕式は、2006年9月25日に、大石満雄花巻市長も出席して行われました。新たに作られた台座には、「環境を大切にしてほしい」という上記団体の願いを込めて、「あんまり川をにごすなよ」という言葉が刻まれています。
 建てられた場所は、「童話村」の入口からもほど近いところで、上の地図の縮尺を[+]のボタンで上げていただいたらわかるとおり、園内に作られた人工的な小川のほとりです。
 銅像の作者の高橋枡旺氏は、「自分の子どものために制作した作品がとても素晴らしい場所に建立されて感激」と感謝を述べられたそうです。

 ところで、童話「風の又三郎」において、この「あんまり川をにごすなよ」という言葉が登場するのは、次のような箇所でした。

 そこでたうたう、一郎が云ひました。
「お、おれ先に叫ぶから、みんなあとから、一二三で叫ぶこだ。いいか。
 あんまり川を濁すなよ、
 いつでも先生云ふでなぃか。一、二ぃ、三。」
「あんまり川を濁すなよ、
 いつでも先生云ふでなぃか。」 その人は、びっくりしてこっちを見ましたけれども、何を云ったのか、よくわからないといふようすでした。そこでみんなはまた云ひました。
「あんまり川を濁すなよ、
 いつでも先生云ふでなぃか。」 鼻の尖った人は、すぱすぱと、煙草を吸ふときのやうな口つきで云ひました。
「この水呑むのか、ここらでは。」
「あんまり川をにごすなよ、
 いつでも先生云ふでなぃか。」 鼻の尖った人は、少し困ったやうにして、また云ひました。
「川をあるいてわるいのか。」
「あんまり川をにごすなよ、
 いつでも先生云ふでなぃか。」 その人は、あわてたのをごまかすやうに、わざとゆっくり、川をわたって、それから、アルプスの探検みたいな姿勢をとりながら、青い粘土と赤砂利の崖をななめにのぼって、崖の上のたばこ畠にはいってしまひました。

 5回にわたって繰り返されるこの言葉は、「変に鼻の尖った、洋服を着てわらぢをはいた人」に対して子どもたちが叫んだメッセージではありますが、子どもたちはこの人との言語的コミュニケーションを、意図的に回避しています。
ここには、「大人の世界」と、異界としての「子どもの世界」との間の、越えがたい不思議な溝が顔をのぞかせているようでもあります。

 5回のリフレーンのうち、はじめの3回は「川を濁すなよ」と表記されているのに対して、なぜか後の2回は「川をにごすなよ」となっていて、この像の台座に採られているのは、後者の「平仮名表記」の方ということになります。