近藤晴彦『宮澤賢治への接近』

『宮澤賢治への接近』 近藤晴彦著『宮澤賢治への接近』(河出書房新社)という本を読みました。

 これまで多くの賢治研究というのは、近代日本の文学史の中に賢治を位置づけるというよりも、どうしても彼だけを孤立して論じ、その世界にのめり込んでいく傾向があったように思います。これは、宮澤賢治という存在のなせるわざでもあるでしょうし、賢治研究者・愛好家という人々の持つ独特の性質のためでもあるでしょう。
 近藤晴彦氏は文学の先生ですが、50歳を過ぎてから賢治に親しむようになられたという経歴のためか、賢治を愛しながらも客観的な視座を保ちつつ、萩原朔太郎や中原中也や外国の文学とも比較しながら、穏やかな筆致で、しかし鋭く、賢治の作品の本質に迫っていきます。とりわけ、晩年の文語詩の分析には、心にしみ入るものがありました。

 近藤氏は、昨秋刊行されたこの本の評価もあって、今年の「宮沢賢治奨励賞」に選ばれておられますが、そのお顔を拝見するためだけにでも、 9月22日の授賞式には行ってみたいなと思いました。

 これは、「大人の」賢治論という感じの本でした。