太陽マヂックのうた

1.歌曲について

 この「太陽マヂックのうた」というのも、かなり不思議な曲です。はたして「歌曲」と呼んでよいものかどうかわからなかったためか、以前の全集では独立した歌曲としては扱われていなかったのですが、「【新】校本全集」で、はじめて「歌曲」の項に収録されました。

 これは、「イートーボ農学校の春」という童話のなかに、繰り返し出てくる旋律です。
 まず、冒頭の「太陽マヂックのうたはもう青ぞらいっぱい、ひっきりなしにごうごうごうごう鳴ってゐます。」という書き出しにつづいて、

という楽譜が出てきます。
 そして、この後の文章の合間合間に、「コロナは六十三万二百」…「コロナは三十七万十九」…「コロナは六十七万四千」…という風にこの旋律は登場し、けっきょく童話の終わりまでに全部で26回、このフレーズは繰り返されます。
 ちょうど同じ「コロナは…」というリフレインは、『春と修羅』の「小岩井農場 パート四」のなかにも、回想として登場します。

 「七十六万二百」「六十三万二百」「三十七万十九」…などという数字は、いったい何のことかと思いますが、太陽のコロナの温度が摂氏百万度と言われていることを思い合わせると、これは、かげろうのように揺れるそのコロナの、刻一刻と変化する温度を告げ知らせているのかもしれません。
 そして春のまばゆい光のなかで、作者の耳には、上のメロディーが「ひっきりなしに、ごうごうごうごう」鳴っているというのです。

 これを、どうやって曲にしようかと考えたのですが、なにぶん四つの音だけでできている簡単なモチーフなので、これを延々とそのままリピートするだけでは、あんまり単調です。
 そこで、バロック音楽には「カノン」や「パッサカリア」というような形式があったことを思い出して、ひとつの定旋律を何回も繰り返しながらも、他の声部でそれを毎回変奏しながら、曲を組み立てることにしました。

2.演奏

 というわけで下の演奏は、上記の主題をパッサカリアのように扱った、J.S.バッハ風のチェンバロ曲です。太陽マヂックの旋律は、童話のなかに登場する回数にちなんで、ここでも26回(うち4回は、四分の三拍子のサラバンドのリズムに変形されて長調で)、「ひっきりなしに」鳴りつづけています。
 なお、童話「イーハトーボ農学校の春」の中ほどには、楽譜を表すト音記号の前に、歌詞であることを想定させるような形で「かへれ、こまどり、アカシヤづくり。/赤の上着に野やまを越えて」という詩句が登場するので、これも歌詞の一部に採用してみました。

3.歌詞

コロナは七十六万二百
コロナは六十三万二百
コロナは三十七万十九
コロナは六十七万四千
コロナは八十三万五百
コロナは六十三万十五
かへれ、こまどり、アカシヤづくり。
赤の上着に野やまを越えて
コロナは三十七万二千
コロナは八万三千十九
コロナは十万八千二百
コロナは三十七万二百
コロナは三十七万二百

コロナの温度100万度は、太陽表面の6000度よりもはるかに高い