浮世絵 北上山地の春
一九二四、四、二〇、
一、
かれ草もかげらふもぐらぐらに燃え
雲滃がつぎつぎ青く綾を織るなかを
女たちは黄や橙のかつぎによそひ
しめって黒い廐肥をになって
いちれつ丘をのぼってまゐります
かたくりの花もその葉の斑もゆれ
黄金のゴールを梢につけた
年経た粟のコバルトの陰影、
その消え残りの銀の雪から
みんなは燃える頬やうなじをひやします
二、
風の透明な楔形文字が
ごつごつ暗いくるみの枝に来て鳴らし
またいろいろの鳥も来て軋ってゐますと
わかものたちは華奢に息熱い純血種(サラーブレッド)や
トロッターやアングロアラヴ
またまっ白な重挽馬に
水いろや紺の羅紗を着せて
やなぎは蜜の花を噴き
笹やいぬがやのかゞやく中を
おぼろな雪融の流れを溯り
にぎやかな光の市場
その上流の種馬検査所に連れて行く
三
水いろの天の下
まばゆいかれくさと雪のなかに
赤いチョッキのこどもが立って
馬が一群放たれてゐる
寒天みたいに光りながら
草を噛んだり座ったり
また首をあげて遠くへ聴耳をたてたりする
風がすきとほって吹いてゐて
茶いろに黝んだからまつの列が
めいめいにみなうごいてゐる
鳶が一羽菫外線に灼けながら
木はたよりなくぐらぐらゆれて
鳶は一つのボートのやうに
かげらふの波に漂はされる
……鳶もわざとゆすってゐる……
こどもがいきなり両手をあげて
鳥をおどせば却って馬がおどろいて
鳶はゆっくり木をはなれ
ぎらっと一ぺんひるがへり
みんなの上に
大きな輪をかきはじめる
四
いそがしい四十雀のむれや
裸木の条影置くなかに
水ばせうの青じろい花
湯気立つ水のたまりには
ひきの卵の紐
向ふは古いスコットランド風の
円い塔ある事務所と厩舎
四角に積まれた廐肥の上で
ホークも白くひらめけば
風は青ぞらで鳴り
自然にカンデラーブルになった白樺もあって
その梢では二人の子供が山刀を鳴らして
巨きな枝を落さうとする
こどもらは黄の芝原に円陣をつくり
まっ青な太陽のなかに、三本脚の烏を見れば
何か毛糸で編みながら
ステップ住民の春のまなざしをして
赤いかつぎの少女も座る