(1)
祀られざるも神には神の身土があると
あざけるやうなうつろな声で
さう云ったのはいったい誰だ
(2)
つめたい雨は
宙でぴしぴし鳴ってゐる
(3)
まことの道は
誰が云ったの誰が行ったのと
さういふ風のものでない
それはたゞそのみちみづからに属すると
答へたものはいったい誰だ
(4)
ときどき遠いわだちの跡で
水がかすかにひかるのは
東に畳む夜中の雲の
わづかな青い燐光による
(5)
まことにわたくしはこのまよなかの
杉やいちゐに囲まれて
ほのかに睡る棟々の
いくつをつぎつぎ数へたことか
(6)
どこからともわからない稲のかほりと
つかれたこほろぎや水の呟き
(7)
まっくろな並木のはてで
見えるともない遠くの町が
ぼんやり赤い火照りをあげる